nogutikusan’s diary

畜産と共に歩む20有余年、今の養鶏の課題や考えをお伝えします。 のぐ地久三事務所養鶏部公式ブログ

成鶏更新空舎延長事業が再発動して 鶏卵の動向

令和1年5月20日より成鶏更新・空舎延長事業が発動しました。
既にご存知のことと思いますが、今年2回目の発動になります。


4月の時点で5月には再度この事業が発動される噂や報道がありました。実際5月最初の取引は以外にも需要が多いことで相場安にならず安心感が広がっていましたが、やはり相場安に発展しました。


5月7日は東京M基準価格は185円ですが、16日に175円(10円安)、20日に165円(10円安)となり26日現在に至ります。
20円の下落は養鶏家にとっては痛いところです。鶏卵の固定引き取り量が多いところはまだ良いでしょうが、相場に大きく依存する経営状況の方には不安でなりません。


東京の相場はまだサイズ横並びで、L、M、MSが同じ価格で推移しています。鶏卵の生産からすればこのサイズにあらかた収まる経営者が多いので、サイズによるターゲットをさほど考えることはないかもしれません。


しかし、心配なのは、次に高いのはLLで小ぶりのSは平均135円で横並びから30円安と採算的に厳しいラインになります。


なぜ、このようなお話をしますと「5月にしては夏日・猛暑日」という報道が多く聞かれます。
夏季は、一般に卵重減少が発生します。しかもその現象は1g以上減少することも珍しくありません。


多くの養鶏家は飼養摂取量を減少させる管理をされていると思います。この手法は摂取量を減らすことで鶏卵が卵重増加する要因タンパク質の摂取を少なくさせて重くなっていくカーブを穏やかにする手法が多いはずです。


ご存知の通り、タンパク質のみ少なくしたエサを給餌することも可能でしょうが、一般的にこのようなエサはエネルギー量も少ない配合であることが多いため、鶏が満足すると感じるエネルギー量が少ないことで通常のエサより多く摂取してしまいますが、
結果多くてもたんぱく量が少ないため利点があるという理論です。

農業試験場でもこのような成果報告が多く発表されており、一般的な技法でしょうが、この部分の技量いかんで成功したり失敗したりする現実もあります。


飼料メーカーの指定配合であるため希望通りの配合が出来ないためこのような考え方を採用する養鶏家が多いのでしょう。

 

さて、夏季は暑いため、鶏は自身の熱を排出するため様々な仕草をします。養鶏の基本学習みたいで申し訳ありませんが、鶏はいわゆるパウンディング(ハアハアする仕草)して熱を下げていきます。

その他、冷たいものを触る、他の鶏に触れて熱を逃がす仕草もしますし、羽を少し広げて(脇を見せるような広げ方)をして風を自身に通して熱を下げる等仕草が多様化します。

鶏は汗をかきません。

このため冷たい水を飲むことで自身を冷やす、又は今お話した仕草で冷却するしかありません。
しかしながらこの仕草だけでは、基本十分な冷却は期待できません。そのため摂取量を下げて取り込んだエサの分解に必要なエネルギーを取り込む量を少なくして自身の皮下脂肪ではありませんが、脂肪分をエネルギーに置き換えていく仕草をします。これが、摂取量減少のメカニズムになるのですが、問題はここにあります。


エサが少なくなるということは、エネルギーやたんぱく質が少なくだけではありません。その他の栄養素も少なくなります。


つまり、生命維持のための栄養素が十分吸収できないということです。一般的に3gや5gくらい摂取量が少なくなる場合多くはその配合で充足できる量を満たさないとされ、
栄養不足となります。人間でもそうでしょうが、栄養が十分でなくてもすぐに病気にはなりません。夏はのど越しの良いビールではありませんが、冷麺など栄養というより
とりあえず摂取する行動をします。鶏も同じ事をしますが人間より早いうちに変化が現れます。


最初にあらわれるのが、卵重の減少です。毎日産出する鶏卵に変化が出ます。同時に体重が減少します。通常数週間程度かかる変化が短いほど鶏へのダメージは強いという法則があり、摂取量が急激に低下した場合、鶏へのダメージは大変強く、卵重減少、体重減少と生産量の減少と3つ同時に現れます。それ以上のストレスは鶏が死亡するという流れになります。


夏季に報道される、鶏の大量死亡はこのような影響があると言われます。

 

先ほど、Sサイズが安いお話をしました。このクラスの卵の重さは46gから52gの6グラム範囲でいわゆる産卵初期の鶏卵がこれにあたります。では鶏舎60g程度の平均卵中であれば問題なしと考えがちですが、あくまでも「平均値が」という話です。

平均卵重が60gの場合、最も多いサイズを算出しているのはMサイズで50%を超える量はここに分けられます。
次いでMSが40%を少し割る量、他Lサイズに10%未満、Sサイズが1%程度になるとされます。


ですから、通常は問題ないと考えられますが、初期産卵をしている鶏舎は通常早いタイミングで卵重が55g、60gと増えていきます。


しかし、夏季はそのタイミングがゆっくりとなるため、問題のSクラスが長くなる傾向があります。


参考までに54g平均とした場合、最も多いのはMSサイズで55%程度、次いでMサイズが10%程度、Sサイズが30%程度と分けられます。
ですから、早いうちにこの平均を超えていきたいところですが、ゆっくりとなる夏季は生産量減少の他卵重減少、生産クラスの変動で、大変ご苦労されるかと思うのです。

先ほどのお話の通り、養鶏家は小さい卵の産出に技術改善を進めています。平均60gだったのが、夏季の影響で58g、57gと下がると・・

Sサイズの産出が増えてきます。


あくまでも鶏卵相場が今のままであることを想定したお話をしていますが通常Lサイズが最も高く次いでM,MS,Sと価格が低くなるのが一般的です。


ですから、先ほどの卵重平均を見て頂きますと、通常の相場展開となれば、いずれもLサイズが少なく、平均的なMが多く、それ以下のクラスも多いという展開になるでしょう。
あとは、価格をつけて頂ければ相場から見た価格計算ができます。

 

現在、成鶏更新空舎延長事業が発動されています。つまり採算基準ギリギリか不採算領域かという状況です。その中でもL、M、MSはまだ辛うじて採算ぎりぎりというところもありましょう。


しかし、あと10円いや5円下がると不採算領域に突入していくところが多くなるはずです。


先ほどのように固定価格契約があるところはまだ良いと思います。しかし不需要期であるため安定した出荷になるかはわかりません。


しかし、鶏舎を空舎にして、飼料代金を浮かせることは意味を持ちません。鶏舎は稼働していくらの世界です。売るものがない=収入がないということです。

 

収入=(鶏のコスト+飼料代)-相場価格(固定価格) となり差額が収入(粗利)です。よほどの時代でない限りコストが上回ること(完全赤字生産)はありません。


ですから、稼働しなければもうからないのです。従業員を雇用されていれば固定費は生産量により左右されませんので赤字が増加します。なので止めるわけにいかない、次の餌付けスケジュールもあるのでなおさらでしょう。


しかし、生産して赤字になるラインは会社によりましょうがどこかにあります。そこのラインに抵触したとき、明日廃鶏というわけにはいきませんが何らかの決断が必要です。


その目安が成鶏更新空舎延長事業の発動といえます。


飼料引き渡し価格が6月に発表されます。7月からの価格は現在と同じか若干でも下がれば良いのですがどうでしょうか。


鶏卵相場は今が底とも言います。猛暑による生産量の減少がある可能性があり価格が崩れていかないという考えですが、関東は恐らく生産量が過剰であるため生産減少が相場維持(価格維持)につながることはないでしょう。


昨年のような大きな災害で生産に被害が出る場合は分かりませんが、近年の異常気象は養鶏家にとって脅威であるのは間違いありません。


それに加えての相場安展開と成鶏更新空舎延長事業の再発動。鶏卵価格補填事業は通年資金が底をつく傾向があるように感じます。ですからいつまでも安泰ではないでしょう。


コスト削減が急務でしょうが、それが人件費に及ぶことがないことを祈るばかりです。人材流出に発展し軽作業員(作業しかできない方々)の増強第一で、考える人材が減っていく危険が伴います。
これに気づく方はそう多くないため会社の存続の分岐点になる夏季になることがなければと思います。

 

成鶏更新空舎延長事業はしばらく続くと思われます。秋は生産量が回復してきます。需要も増えますが昨年は需要を上回る供給量でした。さて本年はどうでしょうか。

鶏卵の動向に注意していきたいところです。