農場にとっては約7日以内にビークトリミングをするという手間がなくなり、他に作業員を配置できるメリットや仕上がり具合が作業者により大きく変わることの成長のばらつきを軽減できるというメリットもあり普及が進んでいます。
確かに仕上がりは手作業と違いばらつきは少なく、特に下嘴の短いことによる摂食不調がだいぶ改善しており成鶏以降も仕上がりの良さは一目瞭然です。
ですが、軽減化できるものの課題もあり導入をためらう農場もありますし、育雛時期ではなく育成期に行う昔の手法をまだ取り入れている農場も散見され、ビークトリミングの考え方はまだ農場により違いが大きいと感じます。
そのビークトリミングの赤外線照射式の採用は間違いなく養鶏作業の軽減化に貢献できる手法の一つになり近代化した作業の1つになります。
またアニマルウエルフェアの考え方から見た場合、苦痛からの自由に旧式ビークトリミング機械は熱で切り落とすことが苦痛であるという認識もあり、推奨されない国もあります。
ですが、ビークトリミングがないことで、平飼いによるデメリットも見られ、赤外線式ビークトリミングに置き換えることで苦痛からの自由を解決すると言う考え方もあります。
後にふれますが、苦痛があるのかはわかりませんが、ヒヨコの多くはくちばしの先端の感覚を失っていると考えられ管理の際につつく力が処置していないヒヨコと違い弱いと聞きますし噂されます。
これが初期落ちが多くなる原因と言われますが、そうとは限らないというのが見ている者の感覚でもあります。
では、その赤外線式のメリットやデメリットを考えて見ます。
まずメリットですが、農場の作業性が向上するという点につきます。
農場での作業は、幼雛受け入れ時に加湿温の準備を行うことから始まり受け入れを行います。
多くの種鶏メーカーマニュアルにもありますが、受け入れの翌日までは終夜点灯を行い餌を認識させ、水を取らせるようにします。
温度の良しあしが成長に大きく左右され、温度不足は鶏へのダメージを与えることもあり注意が必要な数日間になるはずです。
また湿度不足は鶏が乾く要因につながり斃死の要因にもなりますから、自動化できる設備があるとはいえ注意して管理をします。
その期間中にビークトリミングを行いますので、推移を観察している時期の不要な作業がいらないということ、人を集めて集中して作業をしますので人手や技術の均一化という農場は解決できない問題も不要というメリットがあります。
一般的に斃死の動向を見ている間にビークトリミングにより鶏へ与えるストレスが非常に高い作業になり斃死が一時的に増えることが多く、管理の不備を見つける時期には出来るだけ避けたいものというのが本音ではないでしょうか。
ビークトリミングは、鶏のつつきあいを防ぐ意味が多いとされますが、鶏種により異なり白系はあまり見ることは経験からありません。
これは種鶏の改良が進んだものと見られ、むしろビークトリミングが不要ではないかと感じますが、赤系はそうもいきません。
ボリス、ソニアといった鶏種ではまだ気性的に荒いものもあり必ずしも不要とは感じません。
ですからビークトリミングを行うかどうかを判断するうえでは鶏種や飼育方法によると考えると良いかもしれません。
そして、仕上がりの良さは手作業を超えるようになります。
一般的に手作業は作業者の経験や慎重さにより仕上がりが大きく変わります。
良い仕上がりとは、止血され切り口がまっすぐになり、やや下嘴が長くても良いとされます。
これは餌を食べる際につまんで食べることもできますし、スプーンのようにすくうように食べることもできるからと言われます。
逆に悪い仕上がりとは、止血行動過多により傷口がこぶ状になり餌を食べにくくしてしまうことや、下嘴が上より短いために食下量が下がり成長の遅延や飲水困難により斃死することもあります。
いずれも作業者の技術により左右されるもので、農場としては出来るだけ技量をそろえたいのですが人手の問題や人の出入りが多いことから困難とも言われます。
その課題が解決できる手段の一つが赤外線式ビークトリミングになります。
ですが、デメリットとして費用が1羽当たりで必要になるということです。
多くは、孵化場において赤外線式ビークトリミングが行われますが、専用の機械を導入するため餌付け導入費に請求されることが一般的です。
その費用は、1ロットあたりで請求される場合や、1羽当たりで請求されることが多く雛の価格に上乗せされます。
その費用は1羽数円程度ですが、仮に1万羽を導入し1羽3円とすれば3万円加算となることもあります。
小規模の餌付けは近年あまり見ませんから、5万羽、8万羽を1ロットとする農場で見れば15万、18万となることもあります。
これを農場作業者で行う場合の費用対効果で見てどうかというのが判断の可否につながると思います。
積極的に売り込む孵化場もありますが、小規模ロットでは割高になる可能性もあり必ずしもメリットを見て有利になるとは言い切れません。
また、くちばしの先端が取れるまで8日から14日程度かかる(照射力により差がある)ことが多いため、初期はピックをつつくための力が弱くなるとされます。
取れるまでの2週間までには、下嘴だけ先に取れる場合もあり、一時的に食下量にばらつきが発生することもあると言われます。
ですが、どちらも管理を見ている者から見ても差があるようには見えません。
初期落ちが多い要因は、孵化場での工程の問題と考えるのが正しいと思われます。
雛質に大きく左右されるということです。
つまり虚弱な雛を受け入れれば、初令から2日後には初期落ちが始まり、ビークトリミング後10日齢までにはそれなりの数が発生します。
逆に、健康的で体重が一定数ある雛であれば、初期落ちは3日又は4日ごろから始まり、ビークトリミング後10日齢までには相応に落ちますが、数は少ないのが経験から見えることです。
虚弱な場合ほど1日の初期落ち数は多くなりこれが、ビークトリミングを行うことが要因と混同されているようにも見えます。
餌付け5日程度までは初生雛は持っている栄養を使用して成長を開始しており、この間環境に影響がなければ孵化場側の問題と捉えて考え、農場側で摂取した餌が反映されるのに5日以降からとみなすことができます。
その他赤外線照射により舌まで照射してしまうと口からの出血も散見されます。
また捕定が良くない場合は嘴も上手でない手作業と変わらず下嘴を短くカットすることもあり、結果体重のばらつきを発生させるようにも感じます。
この要因には自動で同じように作業できるという油断があると感じます。
このようによく仕上げるには頭部や体の捕定の問題もありますし、照射力の数値の問題もあります。
また、手作業と変わらず餌付け中の2週間の斃死は変わらないということもあり、手作業による作業不良を赤外線式ビークトリミングが緩和させることはないとも言われます。
手作業者は仕上がりがその後の予後を知っているため、不適当な作業をしないのが一般的です。(結果次第で注意を受けるからです)
ですが、慎重さ・几帳面性が仕事の良さに左右するためこの点が課題になるのです。
ですから手作業の方が費用対効果から見て割安であると結論付ける方もいるわけです。
ですが、手作業と変わらない仕上がり程度であるならば、作業員を集める労力は不要になるということでもあります。
先ほどのように、養鶏業界は外国人技能実習生の協力なくして農場運営は出来なくなっています。オール日本人であれば良いのでしょうが、人手を確保することは困難と言えます。
最低時給が年々上昇しており、今や全国平均は900円台です。これ以上支払い募集するわけですが、他産業と同額であれば中々見向きされないのが実情です。
求人誌を見ていても同じ謳い文句で募集している養鶏場も散見され、求人誌のスペースに定期的に掲載がある、いわゆる回転すし状態でいつまでもレーンを流れる(掲載が続いている)状況です。
今や時給1000円支払っても確保は難しいというのが実情で、1000円の支払いは他産業も普通に支払うもので競争するにはそれ以上必要になるわけです。
ですから、外国人技能実習生に頼るわけですが、最大5年まで雇用が可能であっても現実は3年が一般的で、この方々は労働ノウハウを学ぶためではなく、日本円を稼ぎに来ているわけですから、技術が数年おきに入れ替わることになり結果、農場でできていた作業の出来るもの、できないものが明確化され、簡易作業に移行していくわけです。
そうなれば、高い賃金を支払うことが困難になり、ますます人手不足に陥るというのが養鶏に限らず多くの業種がそうなっているのではないでしょうか。
ですから、維持するために割高であっても日本人を雇用し技術を伝承させるという目的があるのです。
ですが、理想論だけを話しても意味はありません。
ですから、簡易作業に対応できるために外注するわけです。
今後、ビークトリミングに限らず、様々な作業が外注化されていくことでしょう。
そうして、少ない人材を活用し農場を維持していくというのが中堅以下の農場では一般的になると思われます。
それでも日本の国力次第では魅力的な賃金を準備できないため外国人技能実習生が他国に流れてしまうことも十分にあり得ます。
そのため他産業の基準外になる年齢や作業性に課題がある方を採用しなければ十分に農場が運営できないという事例も今後あると感じます。
ゆくゆくは、ビークトリミングはしないという方向になると感じますが、その時はこの作業がないことのデメリットを知っておかなければなりません。