nogutikusan’s diary

畜産と共に歩む20有余年、今の養鶏の課題や考えをお伝えします。 のぐ地久三事務所養鶏部公式ブログ

栃木県での養鶏施設の悪臭問題 近隣の関係がさらに悪化しています

下野新聞が9月7日に報じた茂木町(栃木県)の養鶏場から発生する悪臭や羽毛の飛散に対し近隣住民が悩まされている問題で、茂木町長は「不快な思いにをされていることに深くお詫びする」「改善対対応策が示されず町も苛立ちを感じている」と述べており、「今後国や県等の協力を受けながら、事業者に要請する」と発言しました。 同町のホームページには17年10月11日小貫地区に建設中の養鶏場の開場祝賀会が行われた旨が掲載されています。 その中には、育成鶏舎1棟、産卵鶏舎1棟、GPセンターが17年7月までに竣工し稼働しており、18年には全施設が完成するとしています。 代表取締役群馬県の養鶏場の社長が挨拶しているとしています。 この事業所は2015年10月に法人登録された農場で、群馬県の養鶏場グループで、資金50億円を投じて施設と同名の企業が運営しています。 謳い文句としては、1日100万個の鶏卵を出荷し飼料の一部に地元茂木産のコメを使用し、地域農業の活性化に一役買うとしています。 開場した経緯を下野新聞は次のように報道しています。「16年に町が誘致した事業で、群馬県の養鶏場の子会社」という位置づけです。 「現在120万羽を飼養し、操業開始直後から苦情の対応と会社側への改善要請を繰り返している」と報じています。 さて、この記事を見た皆さんはどう感じるでしょうか。 養鶏は臭いものだ、羽は普通に飛散する、誘致しての苦情は読みが甘い等意見はあるでしょう。 ですが、養鶏業は地域との共存がなければ成長していくことはできません。 それができないときは、本当に山奥で近くには何もない場所でしか開場できないというのが実情です。 このように民家に迷惑が発生していくことで、住宅の増加とともに撤退していくのが養鶏の姿でもありました。 育成舎があるということですから、ウインドレス鶏舎では排気口から羽の飛散は続いていることでしょう。 鶏が換羽していますから、ワクチン投与等鶏が暴れたとき、鶏舎内を清掃したときは鶏舎内の誇りと羽が排気口へ風で移動し外へ排出されます。 当然ダストダンパー(埃溜め)を設置していると思いますが、これだけでは羽の飛散は防げません。多くは集糞時(鶏舎から外へ排出する際に風に乗り飛散する)に目に見えた飛散があるはずです。 多くはダストダンパーを経由しない排出でしょうから広範囲に広がります。弊社で調査したことがありますが、風に乗るとその場所から400メートルは飛散します。 そこに民家がある場合や田畑があり作目に付着するといった苦情について調査をしたことがあり、皆さんが思う以上に飛散しやすく苦情になりやすい事例でもあります。 また臭気については意外と広範囲に広がり弊所で調査したところ直線は300メートルで養鶏場の臭気を間違いなく感知します。 一般に臭気は500メートルから1キロまでの範囲まで広がるといいます。 実際直線500メートル離れた農場でも悪臭について苦情を受けたという農場もあり、そんなに広がらないと考えることは非常に危険です。 確かに外気に希釈し感じないという意見も聞きますが、臭気が発生する時間帯に確認されている農場関係者は意外と少なく勤務時間の堆肥をいじらない時間帯や、集糞作業がない時間、あるいは風向きを意識しない調査で異常はないと誤認することもしばしばで、問題を余計に悪化してしまう事例もあります。 ですから、この点にも意識が必要ですが施設関係者の対応が十分ではないのでしょう。 地図を見ますと、農場から直線で100メートル付近には民家が点在していますから、恐らく風向き(特に西又は南西)により影響が深刻化するのかもしれません。 周りは木々に囲まれており飛散はないというかもしれませんが、風に乗った時の羽は高さ5メートルは高く吹き上がることも珍しいことではありません。それが風に乗り飛んでいくということはよく見る光景です。 多くは木々に付着するのかもしれませんが、例えば排出する車両が地域を走行し飛散しているということもあり問題になることもあります。 全体像が見えませんが、近隣との関係は会場当初から深刻化していたのかもしれません。 農場から発生する臭気の多くは悪臭防止法に抵触するような事例にはなりにくいといわれます。 悪臭防止法は、地域を定めており実際畜産施設近辺での設定はあまり見ません。 ですから、臭いから法令違反だと主張する方もいますが、実際は法には違反しているとは言い切れないという現実があります。 では、放置してよいのかと言えばそうではありません。 現在「臭気指数」を用いて臭気度を判定し指導する方法が一般化しています。 これは人により臭気判定をし、一定の臭気を希釈した度合いにより指数化するもので、ある臭気を10倍に希釈して臭気が消えた場合は指数を10、100倍に希釈して消えたときは指数を20と判定するものです。 養鶏場で臭気苦情を調べたところ、平成27年には176件が全国から集計されており、そのうちの91件は臭気指数設定地域外の農場から発生した事例、56件は臭気指数による規制がある地域からの発生事例、29件は特定悪臭物質規制地域からの発生と分類されます。 今回の栃木県ではどうかといいますと、平成24年3月から臭気指数規制による測定評価を採用しており、農場がある近隣を調べると茂木町は住宅地や商業地に対して数値15と定めています。 これは、化粧品売り場のにおいと同等となります。参考までにトイレの芳香剤や花火をしている時の匂いは指数20で超過します。 醤油のにおいは指数30、にんにくを炒めたときの匂いは45になります。 逆に指数以下を見ますと、梅の花の匂いは10になります。 では臭気を大気中に拡散させたとき、どのように薄まるのかシュミレーションしますと、臭気指数30の物を大気拡散させた場合、高さ2メートルから放出した場合着地点の測定は27と変わりませんが、高さ6メートルから放出したら着地点は臭気指数16に、15メートルからでは10未満と希釈されていきます。 このことから、ウインドレスでは、排出口は高い位置に設定し屋根と同じ高さである10メートルを超える場所から排出すると改善が見込まれる可能性があります。 ですが、建築設計の段階から臭気を意識した設計はしていない農場が多いこともあり、後付けでどうにかなるかは微妙です。 ダストダンパーは開口部を上部にして羽の飛散ができないように丈夫な金網で囲うことで一定の効果があるかもしれません。 今回の報道では、養鶏場での対応が十分でないことから近隣との関係を悪くしそれにより行政が動くという典型的な悪い事例になります。 農場はすぐにできないとしても何か努力していることを説明しなければなりませんし、そうでなければ余計信頼関係が悪化していきます。 信頼関係が崩れたとき、多くは元に戻らず悪化の一途をたどることもあり畜産経営が一層困難になります。 この群馬の養鶏場がなにかすることはないかもしれませんが、少なくとも栃木のこの養鶏場は何らかの努力や説明は必要になります。 多くは、その臭気や汚染物といったものに対して業界では常識だからという認識では何も変わりません。 住民との関係では業界の常識は非常識と言われます。 ですから、早急な対策が必要になります。 こじれた事例としては、京都府の養鶏場と市及び周辺住民との大きなトラブルがあります。 このような事例にならないよう早急に対策をされることが、農場や近隣の方々そして誘致した町そして、全国の近隣を大事にされて経営している多くの養鶏場の信用のためにも大きな一歩を踏み出していただきたいと思います。