nogutikusan’s diary

畜産と共に歩む20有余年、今の養鶏の課題や考えをお伝えします。 のぐ地久三事務所養鶏部公式ブログ

鶏の埋却地で異臭と近隣の池に液体の流出か 埋却の在り方と近隣との関係を大事に

昨年12月出水市の鳥インフルエンザによる埋却地で異臭が発生し、近隣のため池が白濁するという騒動がありました。 県は8日周辺の住民に対し説明会を行い、移設を行うことを予定し選定していることを公表しました。 県によれば、この埋却地には昨年11月に発生した養鶏場からの鶏や鶏糞等の汚染物合わせて900tを埋却しており、その後ため池が白濁したことや臭気の苦情もあることで、 12月下旬ごろから池の水を抜き出す作業を行っています。 このこともあり、県はこの養鶏場が所有する埋却予定地について埋却に適しているのかどうかについて2月までに点検を行うとしています。 写真が公開され、茶色の液体に白濁汁が混ざり合うような池になり通常みることがない景色になっています。 また近隣の話として、臭気が異常になると同時にハエが大量に発生しており、異臭とハエ発生から衛生面を心配する声が上がっているといいます。 また生活用水に井戸水を使用している地域でもあり地下水への汚染が心配しているという声もあるようです。 またこの埋却地は水はけが悪い土地でもあり選定が良くなかったのではという指摘もあります。 鳥インフルエンザの発生で殺処分された家きんは法令により埋却又は地域のごみ焼却場への焼却が一般的ですが、羽数が多いことや鶏が出す脂肪が焼却炉を痛めるとも言い大量に処分ができないことから、一般的には敷地に汚染物を含めて埋却することが多いようです。 その埋却には県が主導で行うため発生農場が関与することはありません。 今回の騒動は県の処理の在り方と埋却地の適正が要因と感じます。 このような、異臭騒動は珍しいことではありません。 過去は採卵鶏で埼玉県でもあったようで、県は異臭の原因に転圧が不十分であったことを要因に挙げています。その後適切な取り扱いと近隣への周知を意識することを報告書をまとめており、 今回のようなケースに至ることがないように検証されているようです。 一般的には適切に埋却された場合ガスの発生はとても小さいため大気中に放出されても気になるレベルにはないといいます。 ですが、自身のペットでもない家きんが大量に埋却され、その汚染物も埋却することから近隣にとって不安もあります。 ですから、埼玉県の調査報告書でもあるように、近隣住民に対して埋却地に関する説明と、埋却実施等を回覧等で周知し安全を担保できるような追跡調査を行うことが大事であるとしているように、 近隣への影響を最大限意識することが大事であるとしているのです。 また昨年には栃木県で豚熱が発生し今回同様に埋却を行った後周辺住民が不安視する声もあり市が県に対し要望を出したという報道もありました。 畜産を飼養する立場からすると、どうしても目先の家畜や家きんの処分に目が行きがちで、その先にある近隣住民への配慮というキーワードを忘れがちになります。 処分し、消毒をして再検査を受けて再稼働を目指すことで頭が一杯になり、そのような余裕もないこともわかりますが、近隣はその農場の恩恵で生活しているわけではなく、法令順守だからといっても軽視することはできません。 さて、今回の騒動で鹿児島県は埋却先を変更するために候補地を選定しているといいます。 その移設先には発生農場の近くを想定しており、農場所有の土地といいます。 今後移設が進んでいくと思われますが、元の埋却地の回復が急がれることになるでしょう。 報道では、池に流出した白い液体は消石灰とも言います。 つまり埋却した地中の物です。 それが漏出したということであり、地中も一定程度汚染されたとみなす可能性もあります。 では、埋却後の汚染物には悪影響はないのでしょうか。 まず法令は、埋却が完了すると地中でのウイルス不活化と形状が小さくなることを想定するため3年間の発掘を禁止します。 そしてここは発掘禁止であることを告示する看板を設置しできるだけ周辺をフェンスで囲い人の出入りを制限させます。 同時に周辺の環境検査を行い臭気や地下水への汚染度を調べ、必要な指導をすることになっています。 その後は地域によりますが、発掘し汚染物全てを焼却するところもあります。 これに関する資料は全国にあり、県の所有地に仮埋却し3年経過後発掘しその影響と最終処分を行った報告書があります。 例えば愛知県では平成23年に発生した鳥インフルエンザの発生で県所有地へ仮埋却した鶏等に関する発掘調査を行い影響を調べています。 それによれば、3年経過したことで、試掘したところ埋却時のフレコンバックは当時と同じように存在し、つり上げ作業に支障を与えるような強度低下はなかったとしています。 埋却地が水分過多の地ではないことで、順調に風化が進んでいたと思われ、鶏は原形をとどめており、一部は圧着したことで鶏が固まる状態で発見されたといいます。 鶏卵は風化したため発見できなかったこと以外には、発掘には支障はなく、水分含有が少ないことから汚染物を焼却処分できると判断しています。 またウイルスの存在も確認できなかったとされており、地中に埋却し殺菌されたと想定できます。 アンモニアガスは発掘した鶏が入るフレコンバックや試掘した穴からは高濃度のアンモニア臭が検出されたといいます。 総括では、周辺への臭気影響はごく小さいものと評価し、試掘時のフレコンや穴の強い臭気対策には作業員の安全のため送風機が必要としています。 また平成16年に発生した京都府の埋却後の発掘についても報告書があり、それによれば、埋却1年後から毎年ウイルス調査を行った所、覆土、鶏体いずれからも検出はなく、アンモニア臭気も周辺値は高くはなく、法令(労働安全衛生法)違反のレベルではありませんでした。 ただし、鶏が入った袋は愛知の検査同様若干高いとされました。 この調査では、地中が安定した温度と気密・嫌気状態が保持できたことにより、鶏体は水分が低下した状態で扁平しているが原形をとどめていたとしており、消石灰の効果に水分やアンモニアをとらえることが期待でき埋却地の環境負荷軽減が期待できるとされました。 今回の地は水はけが悪いとも言います。 先ほどのように埋却に適していて転圧がしっかりできていれば大きな問題にはならなかったかもしれません。 ですが、水はけが悪いといいますから、一部は遮水シートがあったとしても破れて漏出したと想定され、異臭が広く発生しているということは発酵が進んでいるという状態でもあり、 今のような報告書のようになっていないとも想定できます。もしかすると、埋却穴には一定の水分が存在しており腐敗を伴う状態も想定できますので、陽気の良い時期より寒い時期のほうが取り出す際に発酵促進が一時的でしょうが緩むことでは臭気対策上有利に働くかもしれません。 先ほどのようにウイルスは1年待たずに陰性となる可能性がありますので、拡散は心配ないにしても発掘作業時には現場とその周辺には臭気が大きくなる可能性が想定できます。 先ほどのように適していても穴やフレコンからは臭気があるとまとめています。 また埋却穴には水分が存在している可能性もありますので、作業者の安全も意識しなけなりません。 埋却の話もブログでしていますが、大事なことは埋却地に適しているかどうかをまず知っておき、そうでない場合は無理に行わず、焼却や場合により発生農場の敷地に埋却することも検討しなければなりません。 鶏舎は一般的に脆弱な地に建設することはなく、地の状態は良いことが多いように思います。 実際埋却地が足りない農場では、敷地の一部を掘り起こし埋却したところもあります。 ですから、農場で埋却しないという選択を最初から排除しないことも大事ですし、面積が不足している農場や一定の空き地がある農場に対して指導しても良いことではないかと思います。 再稼働上心配があるという声も聞きますが、大事なのは埋却できる地を用意できないことが問題でもあるという現実を知っていただくことです。 そして埋却地が用意できない場合は県所有地を一時使用できるように準備できるようなシステムも必要になるでしょう。 今後農場の大規模化は一般的になることで、すでに養鶏家の7割以上は10万羽以上を飼養する方々で養鶏業は成り立っています。 今回のように用意された地があまりよくないことで早速周辺に大きな影響を与えてしまったことで、その責任は県にあるという方もいるでしょう。 ですが、大事なのは埋却できる地を用意するのは農場側ということです。 最初から埋却不適地に心配しながら実行することは、このような危険性を伴います。 そして周辺への影響が大きくなり、改善できないことから移設となることで、必要ではない予算を執行することになります。 そして作業される方(多くは民間の会社や団体になるでしょう)の安全性を担保した作業と移設先の同じように掘り出す作業をする時間と手間を考えると最初から適地を選定していれば良かったのかもしれません。 そして、埋却地であることを近隣の方に説明しておくことで、理解が深まると同時に、水はけが悪い地であると事前情報も得ることができたかもしれません。 全て結果論ではありますが、大事なことは近隣住民とのコミュニケーションをしっかりとるということ。 そしてお互い理解を深め、地の情報も知る機会を得ることができるということ。 急いで埋却することになる鳥インフルエンザの発生では、そんなことを確定検査を待つ数時間で決めて実施することはできないという制約があるということ。 であれば、平時の時からこのような取り組みをしておくことが大事なのではないでしょうか。 今年度は令和2年の大流行時期を超える鶏が殺処分されています。13日現在65農場4施設で1102万羽が失われました。鶏を飼養される全国農場の羽数13729万羽(令和4年2月時点)の7.5%程度が姿を消す事態です。例年は今が発生ピークになりまだ油断できない時期です。 飼養羽数が多いことで、県職員の方々の防疫措置作業も大変なことかと思います。 スピード感が必要と言いますが、羽数が多いことでそうもいかないのが現状でもあります。 そうならないためにも、農場側は最大限の衛生対策を行い発生農場にならないように管理を続けるということや、行政も埋却に必要な手順をもう一度考え直す時期になっていることを知っておいてください。 とにかく早い原状回復とこれ以上の発生被害がないことを祈りたいと思います。