nogutikusan’s diary

畜産と共に歩む20有余年、今の養鶏の課題や考えをお伝えします。 のぐ地久三事務所養鶏部公式ブログ

養鶏場の破綻が続きます 広島の養鶏場 鳥インフルから再出発を断念

令和6年3月に鳥インフルエンザが発生し、約8万羽を殺処分した採卵鶏農場が、破産する方向で準備を進めています。


東京商工リサーチによれば、破産準備に入ったのは広島県にある石本農場です。
同社は1961年に設立された養鶏場で、最近の売り上げは3億円台と、8万羽にしては良い収益を得ていたように見える一般的な農場でした。


しかし、3月発生の鳥インフルエンザによる被害をうけ約8万羽の殺処分をうけ資金繰りのひっ迫が原因とされています。
負債総額は調査しており、近日中に破産の申し立てをする予定とされています。


この件について、広島県知事の談話もあり「残念に思う。影響を避けるためにも、予防措置をとっていくようにしていきたい」という話もあります。

 

さて、鳥インフルエンザが原因とされる破産農場は、昨年令和4年の大流行でも発生はなかったとされ、弊所が知る限り初めての事例のように思います。
昨年は過去最悪の被害があり、再開するまでのつなぎ、導入のための費用、素畜の導入補助といった手厚い資金融資と支払いがありました。


確かに国からの手当金支払いは、疫学調査等様々な過程で裁定されてからとなるのでしょうか、支払いは遅くなり確定まで時間がかかります。
このため多くはつなぎ融資を受けて今という場面の手当てをされるのだと思います。


国は国の金融機関からの融資を勧めており、利子の低額化、融資実行の有効性を高めて対応しています。
確かに書類の煩雑さもあるでしょうし、実行までの審査もあり融資というハードルの高さを感じてしまうのかもしれません。

 

しかし、折からの飼料価格の高騰もありましたしエネルギー価格の上昇と高止まりもあります。

そして人件費上昇等固定費の増加も多くの農場では見られる事と思います。
今回断念された理由はわかりませんが、これだけご苦労の中での被害発生からの再開を断念されたという決断に、行政側の鳥インフルエンザへの対応や指導のあり方を見直すきっかけにはなると感じます。

 

令和5年の鳥インフルエンザの発生は3日時点10県11事例の発生で約85.6万羽が殺処分されています。
令和4年度に比べれば少ない数ではあります。


でも少ないから養鶏家は大丈夫と思う方はまずいません。


今年は被害がない年であるが、5月まで発生する場合もあり油断できない。

そう考える養鶏家は多いように思います。


今年も養鶏が盛んな地域の発生はあり、茨城、千葉、鹿児島といった主要地域も発生が確認されており、少ないからという発想より、養鶏が盛んな地域でも被害を受けるリスクは以前と変わらず高いことを意味しています。


この先も油断なく過ごしていただきたいと思います。

 

今回の養鶏場での疫学調査概要は発表されており少し見てみると、
発生鶏舎は日齢357日であり、過去2週間の平均死亡数は3羽であった、3月11日の午後見回り時1メートル程度の範囲で鶏12羽のまとまった死亡が確認され、同日家畜保健衛生所に通報しました。


農場主によれば、通報の数日前から産卵率の低下が確認されていたものの、その他の異常はなかったとされます。
調査時には、発生場所付近で死亡鶏があり、元気がない鶏を複数認めたものの、それ以外の場所では他の鶏舎を含め特段の異常は認められなかった。とされます。


農場は高床式鶏舎開放鶏舎であり、ひな壇3段式6レーンの3通路式という、一般的な構造です。
成鶏舎は7棟(1棟は空舎)、育雛舎1棟、堆肥舎2,飼料舎1,事務所を兼ねたGPセンターが1あるという農場です。


洗浄し乾燥させる等常に1棟が空舎になるローテーションのように見えますので、一般的な管理方針です。


従事者は15名(農場主含む)、そのうち6名が鶏舎管理を担い、他9名はGP作業をしており鶏舎に入ることはないとされます。

 

衛生管理では、以下について気になるところです。
・成鶏舎に入る従業員は、消石灰の踏み込み槽を通過するが、長靴の履き替えは行っていないということ。
・鶏舎のカーテンは、この時期の開放はないが、調査時閉鎖できない、破損している等により小動物の侵入可能と思われる箇所が複数確認された。
・飼料舎は一部外壁がない構造であり、配合装置は配合餌飼料が露出する構造である。
・堆肥舎には外壁はなく、防鳥ネットがない農場である。
その他の懸念する事項として、
・鶏舎には中型動物用の罠を設置している。調査時猫等によるものと思われる食害を受けた鶏の死体を多数認めている。


上記のような疫学調査概要が公表されており、農場の状況が少し見えるような感じです。


開放鶏舎では、一般的に換気システムを自然換気による設備になるため、カーテンを設置し、モニターや壁面等鶏のいる場所を開閉させて換気をすることが多く、一般的なつくりでもあります。

 

この時注意したいのは、カーテンは農場自身が修理補修する際、構造を知らないと十分な閉鎖が成り立たないということです。
良く見られるものとして、カーテンはワイヤーを使いウインチを用いて巻き上げて開放、巻戻して閉鎖という構造です。


経年劣化しワイヤーがちぎれるといった場合や、カーテンに付属する鉄パイプがさびて折れることで、開閉の際特に閉鎖が十分できないということが良くあります。


この原因は、幾つかありますが多くは、ワイヤー構造が分からない者が修理をした場合に散見されます。
ワイヤーは上引きと呼ばれるウインチが引き、戻しをするワイヤーと下引きというワイヤーを下から強く引く構造があり、それぞれがバランスを保つことで、きれいな開閉ができます。


上手な修繕ができない場合の多くは、下引きが十分に下に引く張り方をしていないため、上引きを戻すと、本来は下に向けてきれいに下がるのですが、下に引く力が十分にない場合、下限に近付くと、引く力がないため、上引きだけが緩みカーテンが閉まらないという現象が起きます。


特にワイヤーがいる部位から50センチ、1メートル近辺は特に大きく開く状態で閉まるため、閉鎖できないということもあります。

1メートル以上離れるとカーテンに内蔵した鉄パイプの重みで閉鎖されるという現象です。


この場合、金網の目が大きい場合、スズメといった鳥類が侵入することもあります。

また鶏糞集積場所である床下での閉鎖不良はネズミや金網が破損した場合猫等が入りやすくなります。


今回の調査では、4センチ×5センチの網目ですから大きいものです。


これ以外にも、鶏舎専用の長靴履き替えがないことも気になります。
確かに消石灰の踏み込み消毒をしているので、消毒された長靴と言うことになるのかもしれませんが、消石灰の踏み込みを十分にしていない場合や交換頻度等殺菌保持期間はどうだったのでしょうか。
アルカリ性ですから、数時間1日では変化はしないかもしれませんが、そもそも消毒だけを前提にした長靴の使用は人の信頼があるだけで、十分な鶏舎と外部の遮断にはなりません。


現行の飼養衛生管理基準は必須ですが、これよりも前の版では履き替えるという定義はありませんでしたので、今回の改正から必須になることで、鶏舎専用の履物と言う定義に違和感を持つ方も令和2年、3年ごろまではいましたが、その遮断できないリスクを想定すると、多くは履き替えることを選択します。


飼料の製造過程や保管には野生動物の侵入リスクが想定できます。

それは鶏かもしれませんし、その糞もあるでしょう。
もしかしたら野生動物は侵入できる状況なのでしょうか、自身の食事を網をかけない状態で外に放置しそのご飯を後で食べようと思うでしょうか。
外に置くということはそういう、外部の要因により汚染されやすいということです。
今は見ませんが、昔は食卓にハエの付着を防止する網目状のキッチンフードをかぶせて食卓に置く家がありました。

これがない状態でハエといった不衛生なものが付着したと考えると、そのご飯は美味しく食べる物でしょうか。

それより大丈夫なのか、お腹を壊さないだろうかという発想が起こると思います。

この発想が鶏の餌にあったのでしょうか。


また、鶏舎に猫が入るということは多くの農場で散見され、この農場特有のことではありません。

 

問題は猫は汚染リスクが高い生き物と言うことを認識しているかどうかと言うことです。


多くは、猫で鶏の首を引っかかれ血の海になる、鶏が騒ぎ産卵低下を起こす、食害を受けて、糞をされ、血まみれになる床やゲージ近辺が鶏の管理上どうなのかと言う視点が管理の際にあるのかということです。

 

大変厳しいことを言いますが、このような現象は、この農場だけのことではなく全国どこの高床鶏舎でもあり得るということです。


そして、多くは猫が入ったから侵入箇所を探すがわからない、カーテンは十分閉まらなくても仕方がない、長靴の鶏舎履き替えはめんどくさいし、昔は必須ではなかった。

だから消毒しておけば安全であり簡単であるという作業の手間を優先した現状からの逸脱ということです。


これも多くの農場は1つ2つは当てはまるところもあるでしょう。


この油断が事故を招き、もしかしたら鳥インフルエンザの侵入を許してしまうと言うことにもなるのです。


でも被害がなければ、昔からそうである、そんなもの、それで感染する可能性は低いというお気楽管理になってしまうのです。


これは本当に恐ろしいことです。


運が悪ければ、今回のように感染し自身の農場の鶏全てが処分されていくのです。


でも、それは高確率で発生はしない。
だから大丈夫である。
そうなってしまうのです。


気づいた時、あるいは鶏を失ってから後悔するという方もいます。
でも厳しいことを言いますが、後の祭りなのです。


事故は発生する前にそうさせないということが最善の策であり、それをおろそかにするということは理由は何であり放棄したということなのです。


でも高確率で発生しないからこそ、それが当たり前でありその程度では発生するわけがないという根拠ない安心を農場自身がもってしまうのです。

 

今回の養鶏場は経営の再建をあきらめたようです。
確かに再稼働まではいくつもの確認事項、不備の修繕、消毒、再検査といったいくつものハードルを越えていく気力と資金力が必要になります。
無収入の中でこれらの作業を進めていくしかありません。

 

当然ですが最低数か月は再導入は許可されません。

そして餌付けも導入許可の翌日に入れることもできません。

鶏の導入は大びな業者の餌付け状況や場合により幼雛からの飼育で待つということも珍しいことではありません。

今は、餌代が高いこともあり、大びな業者も過剰飼育をして余剰鶏を飼育しているところは逆に珍しいものになっており、急の仕入に対応できるところはほとんどありません。

 

できる時期がわかれば餌付けの準備をして大びなをどこからか、仕入れる必要があります。
大びなが買えないのなら、幼雛から買うのか、中びなを買うのかになりますが、卵を産み収入になるのは最短で140日令頃になるはずです。
130日頃から卵は産みますが、小玉すぎて値段は付きませんから、収入と言えるのは5割産卵前ごろからになります。
大びななら導入して2週間程度で収入を得ることができるでしょうが、中びな、幼雛であれば何十日先の話をするのでしょうか。
そう考えると、鶏を失い無収入になりいくら融資を受けるとはいえ、その返済のために現行の返済と合わせて経営していくことになります。


国の補助もあります。

大びななら1羽900円程度支援してくれます。

でも大びなはその値段で売っているところはありません。
最低その倍、1.5倍と言うこともあります。あくまでも補助です。

差額は1羽ならともかく、1万羽、5万羽となったらどうでしょうか。

単純に掛け算をすると、補助の超過額(自腹額)を試算できます。


そう考えると、鳥インフルエンザの被害は本当に大きいものであり、経済的損失が計り知れないという現実があります。


これは経営者であれば本当に真剣に考えるでしょうが、従事者はどうでしょうか。


そんなお金の話をする経営者はほとんどいません。
お金の話程いやらしいという概念があるのでしょうか。
でも管理をするのは従事者が主になるはずです。
その衛生対策も同じです。


であれば、リスクがあり、遮断するということの大事さ、農場器具の原理原則をもう一度お話しして共有することが大事になります。


でもそれすらできない、気づかない農場が多くあります。


その農場ほど、そんなもの、そんなリスクは高確率で発生しないといった根拠ない自信がまん延しているはずです。


5月までは鳥インフルエンザの流行があるとされます。


今年は昨年より被害数は確かに少ないですが、それは全国的な話であり、発生した農場は多くは鶏を失い無収入になり、融資を受けてお金にならない再稼働までのプロセスを粛々と進めていきます。


この作業は本当に気力との戦いになるといわれます。


そうならないためには、初めからそうならないような方策を作り最善を尽くすに限ります。


今回の事例は、再出発を断念した農場のことではあります。
この農場も断念することにかなり悩まれたに違いありません。
納め先、従業員の生活、周辺の影響、経営者ご自身の財産損失といった多くの負を覚悟しての決断になるはずです。


どうか皆さんの農場も、他人事と捉えて、うちは大丈夫、履き替えは昔は無くて良いのに今は必須とは意味が分からないといった自己中心的な発想を改めてみてください。


そしてそうなっていないか現場を再確認してみてください。


今年は大丈夫かもしれませんが、今年度令和6年はどうでしょうか。
先のことは誰にもわかりません。

でもうちは大丈夫と言うのは何を根拠にしているのでしょうか。


被害にあわれた農場には心よりお見舞いを申し上げます。