今日はある疫学調査概要から、皆さんが想像する鳥インフルエンザのリスクを考えていきます。
弊所が行うリスク研修の手法をそのまま説明していきますので、皆さんもぜひ他人事のように感じず、隙が生む怖さを想像してみてください。
そして、俺の農場ではないから関係ないし、部下は優秀であるから残念な農場だなという、自分に都合の良いものの見方を改めるきっかけで見てみてください。
きっと視野が変わり、何が大事なのか、災害なのか、俺の見る目はフィルターがかかっているだけなのか。 そんな気づきが生まれるは ずです。
では、概要を説明します。
1,基本情報と周辺の状況
農場は、採卵鶏の農場でウインドレス鶏舎になっており10棟の構成で運営しています。
発生当日は10棟のうち8棟が稼働しており、そのうちの1棟から被害が発生します。
農場の周囲は沼があり、冬になるとカモ類が飛来します。しかし発生時時点飛来はなく通年いるマガモ等が認められました。
農場にはハシブトガラスが多く飛来し常時10羽が旋回し、数日前は30羽近くが沼で水浴びをしていたという農場の聞き取り結果があります。
そして調査から沼近くの森林にはカラスのねぐらがある可能性が疑われました。
2,通報までの経緯
責任者によれば、発生当日40羽の死亡が点在しており、通常1羽程度であることから明らかに多いということから通報を行ったとされます。
この農場は平飼いのためゲージのように区切りはなく、死亡鶏は点在するような状況であるが、全体を3区分すると中央部と後方に多いという印象である。
簡易検査の際、検体からはHPAIに特徴的な症状は呈していないように思われるが、簡易検査を行う時間中確認すると、更に10羽の死亡が確認された。
なお、それ以外の鶏に衰弱等異常を呈している状況は確認されなかった。
3,作業者
この農場は15名が勤務しており、鶏舎ごとに飼養管理者を置いている。
担当が不在の際は出勤者が変わりに行っている。
4,衛生管理の状況
農場に入る際の消毒はゲート式の消毒装置を用いて車両を消毒する。 従業員は農場事務所で衛生管理区域の作業衣に着替え、全身を散霧消毒してから区域に入ります。
そして鶏舎に入る際には鶏舎出入り口で鶏舎専用の長靴に履き替え立ち入りします。 なおその際の手指の消毒に関する記述はありませんが、踏み込み消毒を行っているので、靴による汚染は遮断できていると推察されます。
集糞は、一般的なベルト式の回収でトラックが集糞コンベアに横付けして積載し場外に排出されます。
そのトラックは消毒ゲートで消毒されており、共同の堆肥場に搬入して入り堆肥化しています。
死亡鶏の処分は一時保管容器に投入されたものを、毎日共同堆肥施設へ搬出しコンポストで処理されています。廃棄卵も同様に方法で処分しています。
5、野鳥と野生動物
この農場は1棟を2室に分けた構造で、1号舎1室、2室と分けています。
管理者によれば共用部の前室ではネズミが増えているような傾向が見られ、月に1回専門業者に依頼したネズミ対策を行っているがこの点についても対応する予定であった矢先の発生であったと言います。
鶏舎はウインドレスであるものの集糞コンベアの隙間には2センチ×2センチの金網が設置されていましたが、一部に若干の隙間があり10羽を超える程度のスズメが集糞ピット(コンベアのメンテナンスルーム)に出入りしているようであるが、鶏舎内まで侵入している可能性は低いようである。
この農場は3年前に高病原性鳥インフルエンザ発生による防疫措置を受けており、再開に当り以下の対応を行いました。
ア、野鳥誘因防止のため場内での堆肥化を取りやめて場外の共同堆肥施設を使用する
イ、HPAIシーズンは入気口にフィルターを設置する
ウ、古い鶏舎は解体し、最新型に新築をする このような取り扱いをして再開を開始していました。
このような事例で、何がリスクで何が心配になる事例になるでしょうか。
まず良い点やどの農場で行われているという点についてお話しします。
農場の入る際の設備はよくできているという点です。
農場出入り口には、消毒設備があり車両がしっかりとそこで汚染を遮断しています。 これはどの農場でも同じで、自動なのか手動なのか、ゲートなのか手動でホースで消毒するのかどうかの違いで大きな差になるものではありません。
またゲート式だからリスクが小さい又は発生事例がないということはなく、手動ホースでしっかり車両からのリスクを遮断していても差異はないように思います。
一般的に出入り口から消毒設備がないという農場ではないはずですから、設備だけでどうのこうの議論するところではありません。
問題は鶏舎までの動線と鶏舎へのアプローチです。
この農場は衛生管理区域に入る際、専用の作業着に着替えた後全身を散霧して管理区域に入るという徹底ぶりです。
恐らくこのようなことをする農場はないでしょうし、私は見たことはありません。 とても遮断するという意識は高いように見えますので、良く取り組みをされていると言えるでしょう。
では、鶏舎内はどうでしょうか。
奇麗になった作業員と遮断した鶏舎であれば良いのですが、まずピット室にはスズメが飛来しているということで、例えば集糞時スズメは活動していないでしょうが、床とかはどうでしょうか。
野鳥の糞はないでしょうか。
あるとすれば、立ち入る時は履物は別になって鶏舎に入るのでしょうか。
実は多くの農場とは言いませんが、弊所で動線確認をする農場の多くは、鶏舎で履く長靴で除糞後の清掃をするという所が多く、ピット室の清掃もそのままの履物で入るという事例も散見されます。
履物は再度鶏舎で出入り口で踏み込みするものの、例えばコンベアの汚れが衣服に付着しそのまま鶏舎に入るという所も多く弊所では一般的な事象と見ています。
問題は、野鳥がいるところは糞からの汚染を想定しているのであれば、清掃作業は鶏舎担当にさせるより、輸送担当が輸送後行わせる方が鶏に近くないピット室の清掃であれば鶏舎内に入らないためリスクは小さいのですが、ここは集団堆肥場へ搬入しておりますので、堆肥場から汚染も心配されます。
自社の堆肥場をこのように複数の農場で共用するという事例は多くの場合普通のことで、問題という認識はありません。
ですが、例えば自社A農場でワクモが発生していて鶏糞に大量に付着している中で、汚染のないB農場の鶏糞を輸送してくる。ダンプアップすると埃が舞い衣服に付着する。
でも車両は農場に入る時ゲートで消毒します。でも人はゲートで一緒にシャワーを浴びません。運転台にいて消毒を待ちます。 こう考えるとどうでしょうか。
汚染した人はそのままスルーしてまた鶏舎入り口に行き作業をする。でも作業者は操作する際長靴は消毒するけど衣服はそのままで操作盤を触りに鶏舎の踊り場に立ち入る。
よく言われることですが、鶏舎の奥で斃死が多く見られるという時、集糞時の場所とクロスすることが多いのが、経験者や鶏を専門に見ている管理獣医師さんはリスクが高いと考えます。
人の出入りはどうなのかと言われるのはここにあります。
ワクモなら汚染を心配しますが、見えないウイルスはないものと考えがちです。
そしてこのような流れは多くの農場で良く見るもので、ワクモが広がるという時の最初の要因は人の伝播とよく言われると思いますが、これと同じ発想が必要になります。
堆肥場はできるだけ自農場で保管をして、その先搬出させる際は別の車両と別の運転者が行うと交差汚染度は下がります。
ですが、少人数か運転免許保持者の関係でそのような区別ができないという農場も見られます。
であれば今日は集糞、明日以降搬出と分けることで鶏舎に関わるリスクを小さくする工夫があると良いでしょう。
鳥インフルエンザは野鳥が運び周辺に浮遊すると言われます。
ですから人のかかわりより浮遊することを防ぐ手立てがないのでフィルターで遮断を試みるというのが近年の考え方ですが、それは正しいことですが、そうなると遮断はもはや不可能と言っている状態で運の良しあしで決まるという風に聞こえます。
その通りかもしれませんが、弊所では意識を持って取り組むということ、毎日を繰り返し緊張感を持続させるという視点から、うるさいかもしれませんが人の意識づけが大事になると思います。
正直消石灰を撒くだけで何とかなるような時代ではありません。撒いていない農場は今の時代いませんし見たことはありません。
でも被害が生まれるわけですから、消石灰を撒くことが有効なのは平成時代の古い考え方なのかもしれませんが、一番の有効方法と捉えがちです。
まったく意味がないということはありませんが、気休めに近いというのが実情のように感じます。 本当はその先、それは野鳥を追い払うことなのか、鶏舎と外を遮断する方法を徹底するのか、フィルターで防御するのかということです。
消石灰は地面にある野鳥の糞に対し効果があるでしょう。風で巻き上がれば空気も除菌するという方もいますが、本当にそうなるでしょうか。 そうなるなら屋根から地面に向けて石灰を吹き出せば効果はありそうですがそんなことをする人はいません。
やはり消毒方法の一部であり完全なものではありません。
ハード面(消毒設備と消石灰の保有といった設備や実行する物品)は本当によく充実しています。これは多くの農場で当てはまるもので、今の時代入り口に消毒設備がない農場はありません。
養鶏は衛生対策が進んだ畜種だといつも感じます。
でもよく観察するとそれをうまく使いこなせないソフトの面(人やその方法を理解するという知識)が追い付いていないという事例が大変多く、ブログでもお話ていますが、足ふみ消毒槽はあるけど、踏み方が甘い又は消毒しない、それは面倒だから、時間がないから、靴の履き替えもきちんと遮断できる方法にしているのに、ちょっとしか立ち入りしないから履き替えしない、長靴が穴あきであり消毒できないというところもあります。
形はあるけどどうでしょうか。
そんな事例もあります。
多くはこれを経営者が知っているのかと言えば、農場責任者までしか知らないということも多くあります。
その理由は、そこまで深刻なものではなく日常的なものだから。とよく聞かされます。
つまりそんな程度で良いという認識であるということです。
ですが、第三者が立ち入りする時はしっかりしていると答えるでしょう。
だってハード面は充実しているからです。
ここが盲点であり隙になっているということです。
人の出来不出来は生産性も左右されます。
それは養鶏家皆さん知っていることですし、そうでない人も農場によって生産性が大きく変わることも肌で感じているはずです。
ただの偶然と片付ける人もいるでしょう。
設備が古いからそうなるという人もいるでしょう。
でもいつも劣る農場は本当は人に不備があるということを知らないのか、知りたくないのかわかりませんが、現場を観察するそうではないかと感じます。
これと同じで、衛生対策も人の意識一つで大きく変わるというのは事実ですし、ワクモもそうですが、広がる、発生するという根本は人の意識が薄い又はそんなものという考えの薄さがあります。
しっかり消毒すれば数ロット入れ替えるうちに消えるはずですが、現実はいつまでたってもワクモが発生し鶏舎を1つまた1つ汚染していく(広がっていく)というのは典型的なものです。
私は、吸血昆虫が広がる鶏舎の多くは人が伝播していると考えています。
だって羽がないのになぜとなり鶏舎を汚染していくのでしょうか。夜隣の鶏舎まで移動してくのでしょうか。
美味しいごちそうが目の前にいるのにあえて冒険する・・そんなことはありません。
軍手衣服から移動していくのです。
そう考える人はいません。
だってそんなことをする人材ではないからというでしょう。
でも現実は人が入っていますけどそういうものなのでしょうか。
人を信じることは大事なことです。
でも見える物ですら思考力が薄いことで普通のこと、当たり前と認識にしてしまうのも現実のことです。
だから教育して知ってもらう。
そして危機として感じてもらう。
そのために課題を作り一緒に考えていく。
自分の農場ならどうなるのかという想像をしながら。
分割管理も大事なことです。 多くの発生農場では、例えば10棟ある鶏舎なら被害鶏舎1つだけで、他は元気な鶏達というのが普通ではないでしょうか。
通報し家保が簡易検査をしてまず陽性となった時、確定検査待ちまで他の鶏舎を見るはずです。
その時、この鶏舎もおかしい、あちらの鶏舎もおかしいということはないはずです。
元気なのになぜこの鶏舎で発生したのだろうか。 そう考えるはずです。
まして経営者なら明日確定次第残り9棟も処分される・・そう感じるでしょう。
では分割管理をして他の鶏舎が生存できるならどうでしょうか。
どうせ農場の採算は合わなくなるから全滅しても良いという思考の人もいるでしょう。
でもその手間、その間の従業員は作業するものがないので逆に自由を満喫してしまいます。
その期間は半年、9か月、1年かそれ以上と続くのです。
仕事を与えられないからそれは経営者の責任であり遊ぶなとはいえませんし、遊ぶから給料半額とはできません。
満額支払うことになります。
そんな未来を想像できるでしょうか、でも被害農場の一定数はこのような未来を歩み時間が進み回復していくまでこの時間を過ごします。
イライラする経営者を見たことがありますが、でも仕方がないことです。
ではそうしたくない、そうなりたくないなら、採算が合わないから全滅で良いでしょうか。
半分でも残し、仕事を与え給料を払う方がお金の使い方として有意義ではないでしょうか。
ある農場は全滅したので半分以上の職員を解雇しました。 再開後声を掛けましたが戻る人はいませんでした。
そんな農場もあります。
これはもともと経営者の行動から先行きを見ても戻る値打ちがないと考えていた従業員が多かったということです。
まさに、金の切れ目が縁の切れ目であったということです。
そうなのかわかりませんが、無理に解雇させて確認することもありません。
それよりもそうしないための方法は何か、そう自問して見ると解決方法が見つかるでしょう。
再開まで何か仕事を与えるという経営者もいました。
しかし多くは作業方法が既に出来ている産業に新たな仕事ができるとは思えません。
畑を切り開き作物を作るという養鶏家もいましたが出来上がった作物は規格外で生業になるほどではなく、趣味の菜園のような感じでした。
でも給料は払います。
今日は、被害農場の事例から自分の農場に当てはめて考えるということで考えてみました。
もっと違う皆さんの柔軟な発想で防ぐ手立てをぜひ見つけてください。
本年は既に鳥インフルエンザ被害は北海道で2例、新潟県で2例発生しています。
複数の農場は連続発生となる農場です。
そして近隣で発生したという事例が新潟県で見られます。
最初の農場から1キロ以内の2例目となるものです。
昨年来愛知や千葉での事例と似たような雰囲気を持っています。
是非皆さんの農場は、被害なくお過ごしいただければと思います。