季節は鳥インフルエンザ発生の話題が聞かれる頃になりました。
13日時点の農林水産省発表では6道県8事例108万羽が殺処分対象であると公表しています。
10月17日に始まり10月は4事例(北海道、千葉、新潟、島根県)と11月現時点4事例6農場(香川(関連農場あり)、宮城(関連農場あり)、北海道)となっており、大流行した令和4年度よりその発生頻度は低い状況です。
参考までに令和4年度は10月28日岡山県から始まり、10月は2事例(岡山、北海道)、11月は1日香川県から始まり19事例(関連農場6を含めると25農場)と爆発的発生となりました。
12月は30事例(関連農場も別途あり)となり大流行を感じさせる年度でもあります。
毎年聞かれることでもありますので、改めて鳥インフルエンザへの備えについて語ることはしませんが皆さん引き続き最大限の対応をお続けください。
さて、最近はウインドレス鶏舎に設備を置き換え人員を作業員として迎える人材は安い人材で回そうという農場も見られます。
悪いことではありませんが、それによる弊害を見る機会が多くなりました。
ウインドレス鶏舎に置き換えた方に伺うと、多くは設備が老朽化しており高床式鶏舎から最新式ウインドレス鶏舎に置き換えると言います。
その通りですし、更に伺うと飼料費の削減と労務作業が改善できるからと続けて言います。
高床式鶏舎の一番の大変さは温度管理と鶏糞管理です。
ウインドレス鶏舎は気密性が高く保温効果があることで、冬場の食下量の改善が期待できます。
一昔は白鶏で1日115g、120グラム食べるということが一般的でした。
育成舎でも70g、85グラムと多く食べて体重が乗るということもあったと思います。
寒いからこそ鶏は食べて自身を守る行動をとるわけですが、体重超過になり管理が困難とも言えます。
これでは飼料コストが重いですし、改善したいとすればよい機会なのでウインドレス鶏舎に置き換えるという農場もあります。
また、ウインドレス鶏舎は作業性の改善に大きな効果があります。
保温性が優れるということは鶏舎環境は自動で操作され面倒なカーテン操作、換気操作は基本的に不要です。
設定した鶏舎温度を維持するために排気換気口の運転や停止といった細かい作業に人が関わる事がありませんので、他の作業に専念できます。
他の作業と言えば、鶏糞排出になるでしょう。
高床は1サイクルの間は貯留させることが一般的です。
これは集糞に多くの人出と重機が必要になるからですが、床下に溜まった鶏糞を重機で集めダンプに乗せて堆肥舎へ運搬する、
量が多いほど作業日数も必要となりそのための人出の確保、堆肥舎の保管場所面積の確保といった様々な問題を事前に織り込み準備をするといった手間があります。
成鶏舎では夏を超えることで、水分量が多い鶏糞が排出され堆肥舎の専有面積を大きくすることもあり、堆肥の売り先がしっかりしないと堆肥舎がパンクすることもあります。
ですがウインドレス鶏舎では、貯留できる面積がほとんどありませんので、毎週1回、2回といった排出作業がありますが量は少なく一般的に乾燥していることが多いはずですので排出に充てる人員は少なくても問題はありません。
そして自動化しているため改めて鶏舎用の重機といった機材も要りません。
多くはボタン操作でベルトから排出する鶏糞を鶏舎の隣に堆肥舎を建設すればそのままベルトに乗せて排出しますし、そうでないにしてもダンプに乗せて搬出するだけです。
しかも1週間分しかありませんので排出量もなく短時間で完了します。
では鶏糞排出に長い時間当てた時間を何に使うのかといえば、死亡鶏の抜き出しといった衛生管理に充てると思います。
高床式鶏舎では一般的にAラインゲージが多く、段数もせいぜい2段、3段、4段と言ったところでしょう。
つまり抜き出ししやすい位置にゲージがあり作業としては楽でした。
今は農場の戦略によりますが、5段、8段、10段、14段といった高い段数であることが一般的です。
作業効率を考え2階、3階建てにして管理しやすくする農場もあるでしょうし、高所作業用台車で巡回させるという所もあるでしょう。
その作業時間は1棟でせいぜい30分、45分といったところではないでしょうか。
ではその他の作業は何をするでしょうか。
多くは機械の正常な運転確認(数値からの点検)、故障物があればその対応、鶏舎の掃除と言ったところではないでしょうか。
そうなると割高な日本人より外国人労働者にその作業をさせるという所もあるでしょう。
ある農場は日本人管理者と外国人労働者の組み合わせで農場を回しているという所もあります。
でもこれはある農場だけの話ではなく多くの農場の話でしょう。
長くなりましたが、今日のテーマになる作業員がいるだけの農場と思考がある農場になりますが、浮いた時間に何をさせるかという視野しかない農場と、その時間で何をしてもらうのかという視点がある農場でただいるだけの農場とそうでない農場の違いが見えてきます。
どちらも同じような言い方をしていますが、つまりは「作業させて時間の穴埋めをしているだけ」か「鶏の異常を見つけるスキルを持つ又は持たせる時間を作るのか」ということです。
多く農場を見ますと大体は前者が多いかなと感じます。
理由を伺うと「管理者がいるから作業だけできればよい」というのが多く聞かれます。
まあその通りなのかなと思いますが、笑う話もあります。
ある農場は日本人管理者がいて外国人労働者が鶏舎作業をしています。
ある時日本人管理者が鶏舎を確認すると鶏糞が通路まで流れ出ていました。
なんだこれはと外国人労働者に尋ねると集糞作業者が来ていないからだと答えます。
この農場は集糞担当者が系列農場を巡回して集糞をしているのですが、ある時担当が変わり巡回順序が変わり期間が開いたようです。
先ほど話しましたが貯留は以前より出来ないと言いました。
多くはベルト式でベルトとゲージの底面の高さはせいぜい20センチ、30センチという所も多いでしょう。
多段式になればその面積分建物の高さを必要としますから建設費も上昇します。
ですからできるだけ無駄のない高さにして過剰な高さにしないように設計図を描くはずです。
またベルトを引くモーターも許容量を超えて引くことになると過重となり停止して作業どころになりませんし、最悪の場合集糞ベルトがつなぎ目や弱い箇所から切れます。
ではどのように復旧していくのかといえば、通路に鶏糞をかき出しベルトの負荷をなくして何とか集糞するしか方法はありません。
そしてベルトが切れるのならベルトに乗った鶏糞を出来るだけ掻きだしベルトの負荷をなくしモーターで動かしながら切れた箇所まで運転しつなぐしかありません。
ここまで行くと作業を修理業者に委託するでしょう。
この場合掻きだしに数日、ベルト接着に1日、また切れるならまた数日と何日も職人手間賃を払います。
そうなると、昔の高床式鶏舎作業どころではなくただの手間仕事になりその作業が何日もかかり人手がいくらあっても足りません。
ここまで行くところもないでしょうが現実あります。
この原因には「作業者は指示されている作業は間違いなく実施していたが、集糞作業が部外者で集糞の遅延は異常であると認識していない」ということです。
作業者は与えられた作業をします。
掃き掃除、故障個所の修繕、機械類の点検と記載といった日常作業をこなします。
でも集糞は部外者であり作業指示の範囲外ですから気に留めることはありません。
ですから、作業者が悪いとは言えないのです。
問題は管理者がきちんと把握しているのかということです。
物事が改善する時多くは、コストカットできた、最新式になることで人件費を抑制できた、修繕回数が減り維持費が少なくなったと金額に換算しがちです。
確かに目に見える成果ですから誰もが納得する数字になるのでしょう。
でも今のような事例になった時、1日2万円の職人がこの不手際で10日も作業にあたれば20万円、2人いれば40万円、3人ならいくらでしょうか。(当然宿泊費も加算されこの額で十分かわかりませんが)そして修繕費数万円、ベルト全交換なら10万円以上となることもあり、削った費用から持ち出します。
でも農場内をしっかり見ていれば、そもそも従事者が異常と捉えればここまでの大規模コスト発生に至ることはありません。
何も見えないというのは、外野はわかりにくいのですが、わからない・知らないというのは本当に危険であるということです。
また、ある農場では死亡鶏が少しづつ増えていくという事象がありました。
1日3羽、5羽、9羽、15羽と少しづつ増えていきます。
この農場は成鶏舎導入してから壊死性腸炎の発生が度々あり、今回も同じであろうということで様子を見ますが死亡数は増えていき1日20羽と増加していきます。
管理者は夏ということもあり鳥インフルエンザを疑うことはしないようで、まあ様子見になるなといいます。
しかし異常から7日、14日と経過し数は低下せず横ばいで推移するため管理獣医師に相談をします。
管理獣医師は解剖して大腸菌症である可能性を示しやっと生菌剤投与に踏み切りました。
この間100羽以上の減少となり、異常を異常と捉えられられない事例もありました。
管理者いわく、ゲージに固まっての死亡はないから個体の問題である、数が多いかもしれないが夏特有の影響もあるし、腸炎であろうと思いどちらにせよ減耗する期間を過ぎれば回復し治まると過去の経験則を持ち出します。
異状を異常と知ればここまでの期間をかけず自ら解剖するなどして先に情報を集めることができましたが、面倒であると同時に過去の経験則で十分と手間を惜しんだ結果でした。
ウインドレス鶏舎に置き換える時、多くは便利で作業性改善が期待できることを期待して改築をしていくと思います。
ですが、多くの農場はその作業性改善の使い方を「他の作業をさせて時間の穴埋めに使う」という目先の楽な思考に陥りがちです。
そうなると散見される「勤務年数は長いが、経験値が低い」という穴埋めに使った時間は経験値に反映されないという事例が多くなるように見えます。
鳥インフルエンザ防止に意識を向かわせる時期ではありますが、いくらハード面を強化しても、管理する人の意識や技量が伴わないと足元をすくわれるということもあります。
ウイルスが鶏糞を通じて空気感染するから除菌するといった情報があれば殺菌方法を構築して防ぐという発想も大事です。
でもそれはハード面の整備しかありません。
大事なのはそれを行う人というソフト面が両輪のように実行されないと十分な効果が期待できないということです。
鳥インフルエンザの発生がウインドレス鶏舎から多く見られるのは、今の時代ウインドレス鶏舎が主流だからであり高床式鶏舎が安全と言うことではありません。
入気口に殺菌剤を流して除菌した空気を送るにしても被害があるのは空気中の殺菌が十分ではないということになりますが、そもそも完全除菌は可能なのかという視点も大事です。
では何を意識していくのかということ。
一歩先まで想像することが大事ではないかと感じます。
今日の2つの話から皆さんの農場の人の在り方はこのままで良いか、時間の穴埋め作業員でいいのか、そもそも管理者は技量があったのか。
課題が見えるきっかけになると思います。
鳥インフルエンザへの対応は喫緊の課題です。
でもその課題を想像するとき、消石灰まくだけで解決できていないのも事実です。
ではどうするのか。
入気口に殺菌剤の注入や塗布という方法もあるかもしれません。
でも根底にあるのは人ではないのかとも思いますが、皆さんはどのように感じるでしょうか。