8月の祭りで提供された冷やしラーメンによるサルモネラ菌検出と食中毒がありました。
鶏卵のお話ではありませんが、近年サルモネラ菌が原因とした食中毒の話も聞かなくなり、養鶏家の皆さんもサルモネラ菌に関して記憶が薄れていることではないかと思います。
私も、この件があるまでサルモネラに関して思い出すような日はほとんどありませんでした。
お伺いする農場のサルモネラ検査結果には目を通すものの、惰性と言いましょうか検査毎月行っているね、陰性だねといった程度で事務的な流れになっていたと思っています。
農林水産省が令和2年に実施した市販鶏卵の菌汚染状況調査では、全国から20個鶏卵で同一のロット検体1点を1870点、37400個を購入し、卵殻と卵の内容に分けてサルモネラ検査を実施したものです。
それによれば、卵殻について6点(全体の0.3%)からSE(SalmonellaEnteritidis)が検出、卵内容は1点(0.05%)から同じくSEが分離されています。
1点20個を攪拌して検出していますので、どれくらいの個数かわかりませんが、そのうちの1個が汚染したと仮定すると今回の市販鶏卵の割合は0.0027%程度と試算されたとしています。
(参考までに個数関係なく検出されてはいけないので個数がわからいことを問題視することは意味がありません)
ちなみに、前回平成22年の結果は0.0029%と推測されたとしています。
この事例では追跡調査が行われており、それによれば今回同様地域別に鶏卵を購入しており、総検体数5400のうち、3検体の検出で、東海地方、関東地方、近畿地方で各1検体となります。
SE汚染が確認された3銘柄はそれぞれの鶏卵を供給しているGPセンターであり相互の関連は見いだせないとしており、つまりは個々の農場原卵が汚染源で、GPセンターで仕分けされ、他のGPセンターで再仕分けしているわけではないということです。
また特定できた2か所の汚染卵生産農場はいずれも中小規模の養鶏場であったとされます。
つまり、農場で生産した汚染鶏卵はGPセンターを通り販売店に並び、消費者(今回は検査材として国が購入)してわかったというものです。
この報告でもGPセンターでの汚染よりも、農場の汚染(ineggSE汚染を反映している可能性が高いと思われるとされます。
詳細は内閣府食品安全委員会からご参照ください。
さて、今日お話ししたいことはサルモネラ菌を思い出してくださいという話ではなく、このように安全であり安心されるような鶏卵作りをもう一度思い出すことに力点を置いています。
私のように(ほとんどの方は意識された生産を継続されていると思いますので恐縮ではありますが)惰性とは言いませんが、事故に至っていないから意識せずに生産活動を続けているというところもあるかもしれません。
先ほどのように、混入される割合は検査が行われるに従い改善が進んでいます。
これは、ネズミが原因とかいろいろ言われ対策を講じているからと言えます。
確かにネズミが媒介すると教えられた方も多く、だからこそ対策を本格的に取り組んできたことの証なのかもしれません。
または昔と違いSEのワクチンが普及しましたので、だからこそ汚染が防げているという方もいるかもしれません。
どれも皆さんの管理方法が正しい方向に進んでいるからこそ、ゼロにはならないもののだいぶ改善が進んでいるのではないかと思います。
実際昭和時代から見てもおおよそ1割の低減が達成していると言っても過言ではないと思います。
それだけ、皆さんやその先代さんはこの問題に取り組み続けてきているのではないでしょうか。
だからこそ、問題が表面化されなくなりつつあり、いつしか農場検出がないことが当たり前になり日々邁進していくという所もあれば、たまに検出されるけど、通路等消毒してネズミとわかっていて再検査して陰性になることを確認している程度の農場もあるかもしれません。
つまりは、検出されると悪い物はわかるが、検出頻度は低い又はないから安心、検出しても消毒して再検査して大抵は陰性になるから安心といった考え方の違いが農場によって差が出ているようにも感じます。
昔はネズミ対策をしていれば良いと考えていた方も多かったと思います。
しかし、近年はウインドレス化が進みネズミ対策を講じる手間をなくすような壁の作り方、高所に梁を通さずネズミが通らない環境を作ったり、外壁も壁を登らないように柱を壁内に埋め込みフラット化した農場もあります。 これは、ネズミの習性を意識した鶏舎作りをしたもので、最近は鶏舎メーカーもよく考えてきているように思います。
昔までは、ただ保温できるために壁を張り、高所に梁を入れて強度を保つと図面を引き組み上げたりと、あまりその点を意識したメーカーはありませんでした。
しかし、養鶏家側からの要望もあり、この先を生き残るためにも耳を傾けだしていることで、管理(制御)しやすい鶏舎が増えつつあります。
改築を境に、ネズミ問題がだいぶ改善したという所もありますので、作業性が向上していることがこの問題を更によくしているような1つのきっかけにも感じます。
また、人に意識も高くなりました。
昔は外ではいた長靴は、そのまま鶏舎に入るというのは一般的でした。
飼養衛生管理基準で履き替えとなり、しぶしぶそうなったというところもあるでしょうが、この履き替えが人からの汚染が遮断できているようにも感じます。
鶏に近づくリスクが、ネズミといった野生動物の遮断と人からの遮断がだいぶ改善していることが功を奏しているのでしょう。
どれも皆さんの努力が継続しているからだと思います。
このいつしか当たり前になったことを毎日繰り返すことで低確率かもしれませんが、汚染する機会を遮断できているのがこの数値となって表れているのではないでしょうか。
でも目には見えない菌だから、油断するということもあります。
それは皆さんではなく、外部からの訪問者もあるかもしれませんし、新規に雇用した新入社員の方の意識が高まっていないうちに実践に投入することかもしれませんし、面倒だからという安易さから発生するということもあるでしょう。
見えないものだからこそ効果は実感できないという言葉は、面倒ならやらなくても良いという免罪符になることもあります。
これを油断と呼ぶわけですが、サルモネラ菌はその油断が鶏舎を招き入れるきっかけにもなります。
でも検査では陰性だから大丈夫と思い込むと、今回の検査は陽性となり、消毒して再検査すればだいたい陰性だからいいだろうと更なる油断をします。
またはSEワクチンを接種しているから大丈夫と思い込む農場もあるでしょう。 多くの方は知っていると思いますが、このワクチンはSEを完全に防御出来るわけではないということです。
実際千葉県のワクチン投与試験(平成19年)では、通常1回程度で良いとされる接種を2回実施した場合と摂取しない場合と分けて評価しています。
その結果は1回より2回の方が良いが、接種しない群と比較しても明らかな差はなかったということ、接種をしたとしても完全に防御出来ることは困難であると言うことを示しています。
つまり、行っておけば安心な管理ができますが完全な防御を期待することはできず並行して衛生管理を継続するべきということです。
だからこそ多くの養鶏家さんは、育成期にワクチンを接種し衛生管理を継続して遮断方法を継続しているわけです。
そのためには、安全な自社の鶏卵のためには地味かもしれませんが、履き替え、ネズミ対策がこの先も必要になるわけです。
先ほど鶏舎はネズミ対策を簡素化できる構造になりつつあるという話をしました。
でもネズミは外気温が下がれば暖かい鶏舎に向かい侵入をしてきます。
例えば、鶏糞を排出するベルトから鶏舎に入るということもあるでしょう。
又は排水口から鶏舎に入るということもあります。 だいぶ少なくなったと思いますが、空気口の金網を破いて入るということもあります。
だから目視で確認し、穴があればふさぎ、鶏舎に入る場所はふさぐ又は壁を作り隙間をなくすわけです。 でも意識しないと、気づけませんし、侵入しても勝ち誇ったようにネズミは鳴いて勝利を宣言することもありません。
目視でわかる時は、数が増えて縄張りから追い出された個体が新しい場所を探している時で、かなりの数がいる状態です。
多くはこうなってわかるのですが、不断から意識があれば早い段階で気づけますし、それ以前に侵入させない手間を惜しまず継続しています。
この差もサルモネラ菌汚染を上げるのかどうかの差になっているのです。 ぜひ、毎日の繰り返しでつまらない衛生対策かもしれませんがその継続が皆さんの農場の鶏卵価値を守っているのです。
どうか思い返して1回意識した対策を行ってみてください。 そして、そういえばこういう話は鳥インフルエンザにも通じていると感じたならば、ぜひ見えないものに挑む方法を構築して意識を持ち続けるような仕組みを作ってみてください。
最後に、鶏卵のサルモネラ菌問題はヨーロッパで拡大していることを少しふれておきます。
ベルギーでは8月に300人以上が卵を摂取した後サルモネラ感染症が発症したとされます。
欧州疾病予防センターは20年以降増加している事象で、世界でサルモネラ食中毒が2番目に多いと報告しています。
特筆すべきは26年5月以降イギリス200件を超える数で多く、オランダ100件程度、ベルギー15件、フランス、ドイツ、オーストリア、デンマークでも10件未満(1~6件程度)で発生しています。
イギリスの調査では家庭での調理ではなく外食が関係している可能性があるとしており、汚染卵があらゆる方法で人へ接触している状況であることを危惧しています。
そのヨーロッパは先駆けてSEワクチンを接種しているような国です。でもこのように大きく扱われるのは飼育している環境がどうなのかという点です。
バタリーが優れているとは言いません。水洗ができていないからともいいませんが、ワクチンだけで満足している方がいるならば、効果はこの程度になりかねないという可能性があるということです。
では、日本はといいますと、令和7年まで見ますと、過去10年間でサルモネラ属菌の患者数は6754人で2名が亡くなっています。
令和7年の総数は1172件の食中毒が認知されていて、そのうちサルモネラ属菌が病因物質とされたものはおおよそ24件(全体の2.4%)です。
多くはノロウイルスで約460件(全体の39.4%)で最も多く、次いでアニサキス、カンピロバクターと続きます。
実際サルモネラ属菌であったとしても鶏卵と特定できている事例は昔と違いないように見えます。
例えば8月に福井県の飲食店で804名が食事をして、76名が食中毒になり、そのうち23名が入院し8名の便からサルモネラ菌が検出されています。
しかし、この店はビュッフェ形式の飲食店で様々な品目があり恐らく特定ができていないように見えます。 このように、昔は汚染卵が一般的で割卵した卵を放置したとか、常温に長らく放置したとか言われて実際サルモネラが検出されたという時代もありました。
しかし今は飲食店も安全対策を講じています。必要な鶏卵を割卵してすぐ使用するといった放置のような不衛生をするところもありません。 ですから、原料の卵が汚染とは言い切れない時代になりました。 調理した店舗の衛生はどうなのか、その保存はどうなのかといった複合要因があり特定が難しくなっています。
だからこそ、安全な鶏卵を提供しサルモネラ菌であったとしても鶏卵が主要因ではないということを取り組み続けていくべきなのです。
そのためにも自社の鶏卵は安全であると言いきれる安全対策を講じ続けてください。
昔、養鶏場のあるパート従業員の方が言っていました。 うちの卵は安全だよ、卵の殻いまベロっと舐めてもお腹がくだるようなこともない安全な卵だよと自信もって見せてくれました。
鶏糞が少しついていたので、苦笑いした記憶がありますが、でも本当に自社の鶏卵に自信があると感じたシーンを思い出します。
どの業種もそうですが、従業員から安全であると言われる製品は本当に安全対策を講じていると感じさせます。
でもそうでない、そう思わないという方がいる農場ではどうでしょうか。
安心できないよね、いつもスーパーで買っているよ他所のやつなんて言われたら不安です。
多分、鶏舎はまあ汚れていて、ネズミが散歩していて、まさかワクモもいて殺虫剤が鶏卵にかかっても気にしていない農場なのかなと勘繰ることもあります。
農場の衛生意識は本当にばらつきが大きいものです。
でも問題が発生しなければどちらも同じなのです。 だから労力を注ぎたくないという思考も生まれるのわけですが、大事なことは防げる方法を継続していくという姿勢があることは、サルモネラのみならず農場の意識が高まる原動力になっているということです。
9月にプリンを製造したメーカーが自主回収を行いました。 原料卵「殺菌液全卵」の一部からサルモネラ菌が見つかったからというものです。
おおよそ19000個のプリンが回収対象になりました。 しかし、プリンは加熱殺菌を行い、このメーカー基準では中心温度90℃23分維持という厳しい品質基準で作られます。
ですから、通常殺菌され菌が残る可能性はなく、実際保存した製品からも検査し陰性であるとされますが、原料段階で検出したので回収したという事例です。
それだけサルモネラ菌は、万一製品まで至ると大きな問題になるのです。
先ほどのように買い上げて検査して検出され農場まで特定されるということもあり得るのです。
当然といいますか、ご承知の通りサルモネラ菌汚染の鶏は原則殺処分されることは知っているでしょう。 だからそうなってほしくないという思いもある農場は検査し陽性で消毒させて陰性になるという自己満足で心落ち着かせているところもあるかもしれません。
でも、サルモネラ菌汚染はあっていけないものです。だから私たち生産者側はゼロリスクはできないもののできうる方法で制御していくのです。
鶏卵は仕方がないではダメなのです。
そんな思考では、さきほどのような消毒して再検査してという農場のように見えてしまったものを見えないように蓋をするだけにしかならないのです。
昔は、原料汚染は取引先から切られるからこそ真剣であったという農場も多くあります。
例えば平成23年宮崎県であった食中毒により3名が発症し1名は亡くなるという事件で裁判にまで発展した事例が1つあるとされます。
この事件では生卵入りオクラ納豆を製造したメーカーが被告となり4500万円の賠償が命じられたものです。
判決では、卵の洗浄やパック詰め施設の衛生管理が不十分で、食中毒発生について生産業者に過失があるとされました。
つまり国産の卵は生食を前提とした対策が必要で、生産業者はそれを怠ったという認識です。 実際食べ残された料理や冷蔵庫に保管してあった卵の殻の表面、卵パックの内側からサルモネラ菌が検出されています。
つまり鶏卵が主要因であったということです。
農場HACCPを構築している方の高齢の方や、子供、ハイリスク者を想定するというのはこの点を意識して作ることを教え込まれるわけです。
どうか皆さんの農場の鶏卵は自信を持って安全対策を講じていると言える鶏卵をお作りください。
そしてうちの鶏卵は殻をベロっと舐めても安全だよとは言いませんが、それくらい安全であると言える製品と農場を作ってください。
それが、見えない脅威に対応できるきっかけにもなり、安心できる経営につながるはずです。