nogutikusan’s diary

畜産と共に歩む20有余年、今の養鶏の課題や考えをお伝えします。 のぐ地久三事務所養鶏部公式ブログ

新潟県の養鶏場が破綻 現行の経営モデルと今を比較してみましょう

東京商工リサーチによれば、1月29日新潟県柏崎市の養鶏業鎌田養鶏が事業を停止し、事後処理を弁護士に一任したと報じています。
にいがた経済新聞1月31日版では、今後破産申し立てを予定しており負債総額は5億5000万円であるといわれます。


同社は1976年10月設立で近年はネット通販の他、スイーツ等の販売も行っています。
報道では、2017年に鶏舎を立て替えし、21年に同県内に新規出店等で積極的な事業拡大を行っていましたが、22年9月期の売り上げは減少、多額の赤字計上により債務超過となり、23年の業績回復もせず今回破産となったといいます。


さて、養鶏家である皆さんから見て普通の事業展開ではないかと感じると思います。

 

2017年と言えば平成では29年ですが、この時期近辺の鶏卵情勢について確認してみますと、その昨年28年は一昨年26年の相場情勢で年始は例年の180円程度で春の上昇と夏季の低下、9月以降の上昇を描き12月は250円近くまで上昇しています。
年平均は200円を超えており、今と違い相場高と言えます。


この状況は鶏舎改築時期の2年前26年も同様で、26,27,28年は養鶏にとってまさに春と呼べる好景気でした。


29年も年始は強い上昇で200円割れは6月から始まる典型的な相場展開でした。


恐らく長い好景気であるこの時期に改築、新規農場落成といった、規模を見直す時期であったところも多いと思います。


また、6次産業化も話題になる時期でもあり、デザート、クッキー等焼き菓子といった鶏卵を使用した付加価値のある商品として利益拡大を期待した農場も多いでしょう。


報道でもB級卵を使用したスイーツ販売といった、傷玉の二束三文になる鶏卵が、付加価値となり利益を底上げする、六次産業の夢のスタイルです。


鶏舎の建て替えは新規農場建築と違い、基礎はそのまま使用する、餌タンクをそのまま使用する、集卵設備には変更がないといった予算に合わせた建て替えが可能で、建築費も抑えることも可能です。

ですが安いといえるものではありません。


鶏舎にかかる費用の大半はウインドレス鶏舎であれば、換気システムや集卵設備費が費用の大半になり、ゲージといったメイン品はそれほど高額な分野ではありません。

ですから面積を決めて、どれくらい鶏を入れるのかで建築費は抑えることもできるでしょう。


問題は返済です。

数年前養鶏場の破綻が多く見られました。


その多くは経営不振、赤字増加と配合飼料価格の急上昇からのコスト負担の限界といった事例が多いと思います。


今回は赤字の解消が見込めないという典型的な経営破綻ですが、養鶏ではこのように返済の増加に配合飼料価格の上昇が、利益を圧迫し体力を失い破綻に至るということが多いものです。


または、鳥インフルエンザからの回復で販路先減少から収入低下が続き、コスト高に耐えきれないで破綻という事例もこの平成後半には発生しています。


つまり、この数年景気が良く更なる販路拡大や規模拡大はこの先もこの状態が数年以上続くという見込みがあって行うものです。


読み違えると、負担だけが増えていき収入増加のための方策がないという業界特有の問題に至ります。

 

この経営モデルは多くの養鶏家が追い求めるスタイルかもしれません。


自社鶏卵の販路先以外にも展開先を増やす。
そのためには自社で加工し販売する。

加工品は規格卵以外の鶏卵を主体に使用することで、規格外の著しく低い引き取り値とは違い、採算の取れる商品となり無駄がない。

相場に左右されず、安定した経営と農場ブランドが確立できるきっかけにもなる。


ですが、そのためには加工生産であればその設備、衛生対策に要するコスト、そもそも集客できる味や広告といった出費も相応に必要です。
これにつまずくと、短い期間で撤退ということもありますし、現実一定数は発生します。


それだけ厳しい世界でもあります。


ネット通販も、特筆するような鶏卵でない限り近隣のスーパー、仕事帰りにドラックストア、急ぎならコンビニといったこの鶏卵の良さが見えないと、ただの鶏卵でしかないという現実がありますし、ネットは世界とつながるから販路も多くなるといった言葉で始めるもその先まで進めないということもあります。


この養鶏場ではブランド展開した「赤たまご養生卵」を作り、19年には農場HACCP認証を取得し衛生対策の強化を消費者にアピール等差別化をはかっていました。


20年以降新型コロナウイルスによる巣ごもり需要、令和に入り2,4年の鳥インフルエンザ大流行による鶏卵相場の大きな上昇も本来は追い風になるじきではありました。


でも負債があり、支払いが多い場合、その収入は返済や高騰を続ける配合飼料代金に消えていき、なかなか赤字から抜け出せないという構図になります。


固定費が高くなりすぎ、餌、返済、加工設備、人件費といったものを削る、免除することも難しいことになり体力消耗しながら、経営が改善できることを期待して農場を動かしていたのかもしれませんが、困難に至るということなのかもしれません。

 

弊所でもこのように固定費が増大し、負のスパイラルにもがく農場も見てきています。
経営コンサルタントの支援を受けながらコスト減を図る状況も見てきましたが、養鶏ではコストを図ることは相当困難であり、間違えると農場そのものが傾くという厳しいものである感じます。


少し話がそれますが、ある農場では経営が傾き経営コンサルタントに依頼しコスト削減を進めました。
お約束の人件費削減、残業の申告許可制、コスト減のため餌の格落ち銘柄の使用の推進、飼養期間の更なる延長といった目先の方策で進んでいく事例を見ています。


でも、人件費を削ると、有能な方から離脱していき、ただの人足が残り、頭を使うらしい仕事程度に変わり、餌グレードダウンによる変化がわからず、生産が減少し傷玉が増えていく、更に実入りが悪くなり加工向け出荷専用農場とし、低額であっても安定した経営を目指し、餌代支払いも難しくなり、いよいよ延滞し餌メーカーから取引停止、貸付金の返済訴訟でいよいよ終わるという流れを見ています。


それだけ、生き物を相手に経営を組み立てることの難しさがこの畜産業にはあります。
ただ削る、なくすでは運が良くなり実入りが改善しない限り困難なのです。

 

配合飼料価格の高騰で、一気に倒れる養鶏場が多かった数年前と同じ構図ですが、規模拡大するためには収入が増えることは当たり前であると同時に、餌代が高いのであればどのように削ることができるのか、頭を使い実行しなければ生き残れません。


多くはこれを想定しておらず、売り上げが増えるから大丈夫というある意味どんぶり勘定に近い状態で事を進めてしまうのかもしれません。


収入が増える方法は、餌代をどのように「効率よく」使い無駄をなくすのか、二束三文のB級卵を作らない鶏舎環境や、設備の点検と修繕を早くできるのか。

人を育て人足程度で満足せず、気づき対処できるように育ていかに早く異常を察知できるのか、本当はこのような点にコストダウンという見えるだけでの対策以外にも同時に進めるべきものなのです。


工業品と違い、金型に入れて鶏卵を作っているわけではありません。

事務用品と違い、鉛筆が短いからサックをつけてさらに使うという程度では解決できません。


頭を使い、見えない無駄を徹底的に取るのです。


それは専門家でしかわからないかもしれません。
でもそれしか方法はないのです。

今日のお話を、ただの養鶏場の破綻の話としてこのお話を読むのか。
それとも養鶏が求めるモデルケースは今も通用できるのか。
本当に勝算はあるのか。
六次産業は魅力的であり、一度は展開したい。

そんなあこがれだけでこの先も安泰なのか。


ではどうするのか。


諦めて足元を固めていれば大丈夫なのか。
いや人口減少から販路先維持のためにも拡大は必須なのか。


では、その方法はどうか。


この思考で皆さんの農場を点検してみてください。
未来予想図は今実行しなければならないわけではありません。
情勢が変われば予想も修正するはずです。
一度引いた青写真は10年先もそのままで良いということではないのです。