nogutikusan’s diary

畜産と共に歩む20有余年、今の養鶏の課題や考えをお伝えします。 のぐ地久三事務所養鶏部公式ブログ

オランダに見る養鶏の現状 ゲージフリー鶏卵の普及はあるのか

9月には国内の大手流通店舗において鶏卵の取り扱いに変化が見られました。
それまで、一般鶏卵を専門に扱うある地域GPセンター産の鶏卵から、ゲージフリー鶏卵を生産する農場GP産に商品の置き換えがあり、少なくとも関東の広い範囲において入れ替えが発生しています。
1日の販売数は恐らく相当数になりますのでその置き換わりは大変なものです。
アニマルウエルフェアに対する影響やGAPを意識した取り組みのように見えます。


急速に流通店舗規模問わず置き換わることはまだないと見えますが、少しづつ時代の山が動いているように見え新しい時代が幕を開けるように感じます。

 

そのような国内情勢の中、先行しているEUのうちオランダに見る鶏卵の状況をお話し国内への浸透どうなるのか予測します。


EUは皆さんご存知の通りアニマルウエルフェアへの取り組みに大変熱心な地域です。
EU域内でのゲージフリーの普及率は平均9割を超えます。
それは卵用鶏の他肉用鶏も同じで、ゲージでの生産より平飼いが普及し一般化します。
肉用鶏では、一般的な成長を早める育種改良版と高品質な鶏肉を供給するために改良された種類が存在し従来のブロイラーが全体の7割と主流の生産消費体系でした。


ですが、時代は変わりアニマルウエルフェアという理念が後押しすることで高品質つまり理念という基準を満たす取り組む商品が急速に置き換わります。

採卵鶏も同じでゲージフリーの意識が高まり、店舗での取り扱いがゲージでの生産鶏卵を取り扱うことを止めているところが多く、鶏卵に基準を与えその基準を満たすと☆を1つ与え、最大☆☆☆と3つ星になるような制度をブロイラー同様に制度を作り広めます。


この背景には動物愛護団体の影響があり、☆がない商品と差別化し購入意欲を移行させる目的があったとされ基準があり分かりやすい☆で示すことで普及していくことになります。

そのような国々のうちオランダを取り上げて日本での普及がどのように進んで行くのか予測しながら考えます。


オランダは鶏卵生産ではEU域内では上位にはありませんが、フランス、スペイン、ドイツ、イタリアに続きオランダとなります。
生産量は2015年フランスが918千トンでオランダは650千トンになります。


採卵農家戸数は日本同様減少傾向が続き1100戸程度1戸当たり56000羽の飼養で推移でしていましたが2015年は700戸程度1戸当たり72000羽と規模拡大が続いています。
種鶏メーカーの統合も進み、オランダではノボジェン社の鶏種のみとなります。
日本でもノボジェンを飼養されている方も少数ですが見ます。

国内でのシェアは1割どうかですが一定数ファンが存在しているようです。


飼養形態は、エンリッチドゲージ、平飼い、フリーレンジとあり、国により普及が異なります。
エンリッチドゲージとは、ゲージ内に止まり木、巣のエリア、爪とぎエリアがあり、ゲージ内で動物本来の動きができるとされる仕様で、従来のゲージより広いのが特徴です。
多くは、ゲージ内に照明設備もあり薄暗い鶏舎というイメージではありません。
日本の養鶏家でアニマルウェルフェアといえば、ゲージを改造しこのような設備を整えるというイメージもありましたが、ゲージフリーの一つの基準でもあります。


むしろゲージを取り払い(又は改造して家を作る)、多段式の家を作り止まり木を新設したエイビアリー方式が簡単と思われます。

エンリッチドゲージはスペイン、ポーランド、フランス、イタリアで大きく普及していますが、オランダはベルギーと並び多くはありません。
日本でも、ゲージフリーが仮に普及するとすれば鶏舎内のゲージをすべて取り払い、エンリッチドゲージに置き換えるとは思えません。


費用をかけて設置したゲージを取り壊し、新たにゲージを入れるということは不経済でもあります。
実際ゲージが老朽化して再度ゲージを入れ替えることもありますが、総入れ替えをすることは稀です。多くは破損個所を入れ替えて継続使用することが一般的でゲージを長いスパンで入れ替えることを想定した経営はないでしょう。


ゲージの構造はシンプルで金網で四方を囲いその囲い止めにCリング等を使用して形を作ります。ですから破損の多くは留め具の老朽化もありますし、金網の破損が原因となることが一般的です。
入れ替えも簡単で部分交換を想定した作りで、組立てしやすく修繕が可能で長期間使用できるのが特徴です。


このこともあり、撤去し処分する費用や新たにエンリッチドゲージを購入する費用を考えれば、エイビアリー方式が移行しやすいと言えます。
日本で販売されている鶏卵ではまだエンリッチドゲージで生産されたものは見ることができません。実際は販売があるのかもしれませんが広く普及するものでは現時点まだなのかもしれません。


むしろ、バーン方式やエイビアリー方式といった平飼いが一般的なのかもしれません。


それは、平飼いで生産をすると決意された農場では平飼い専用鶏舎バーン方式として建築するのか、既存の鶏舎を改造し変更が容易なエイビアリー方式とするのか、それともエンリッチドゲージを導入するのか。


開始する状況やコスト面、改造の場合は期間、鶏を平飼いするために成鶏だけでなく育成期からの飼養管理の見直しと必要な従業員の教育がどれくらいなのか等空舎コストも意識されることでしょう。

 

参考程度ですが外国でのコストを示すと、平飼いで1個6セントで、エンリッチドゲージでは1個5.5セント、フリーレンジは7セントになります。


収容羽数により生産量が決まりますので、多く導入すればよいのでしょうがいずれもバタリーゲージより多く収容はできなのが一般的です。(高多段式ができないため)
販売価格が高くなりやすい、フリーレンジ(放し飼い)や平飼いが良いのでしょうが、外国での統計ではエンリッチドゲージでは採算が合わないような結果になっています。
ですが採算が合わないということは現実ありえませんので、販売価格は生産コストとほぼ同じとなるのかもしれません。


EU域内でエンリッチドゲージ普及率は5割を超えておりゲージの大型版で管理しやすいという利点があるのかもしれません。


ですが、販売価格等を見る限りアニマルウェルフェアの考えに近い平飼いやフリーレンジの方が賛同しやすい環境があるようにも数値からは見てとれます。

 

飼養方法はこのようになり、日本で普及が進むとすれば設備が少ない平飼いのバーン方式や、改造し家を多段式に作り止まり木設置をしたエイビアリー方式が容易で今のオランダ養鶏に近いようになると考えています。
オランダでは、2019年で白色鶏卵は7割近く生産され、日本では6割が白色鶏卵といわれます。
オランダでの生産割合は平飼い6割、次いで放し飼いが2割となり、エンリッチドゲージは1割程度とされます。
日本ではバタリーゲージが9割で平飼い、放し飼いなどとなります。少しづつですがゲージから平飼いが増えています。

 

今日お話したのは、数年後の日本をお話しているわけではありません。


最初にお話しましたが外国系流通店舗では本国の移行による鶏卵の扱い方が変わりつつあります。
アメリカでは2024年ごろにゲージを使用しない鶏卵を商品として扱うことを決めています。この決定にはアメリカの流通や外食企業が宣言しています。
外国の話と感じるでしょうが、日本には流通店舗すべてが国内企業ではありません。また外食企業も同様です。

日本のある大手スーパーはアメリカのある会社の親会社は有名です。


このように日本の流通業には純粋な日本の企業が多い中で、大規模展開し消費者と接点を持つ外国系販路も現実存在します。
大規模ということは売上げもあるということで、つまり国内に一定の影響力があるということです。


大型店にはアニマルウェルフェアを意識した商取引を宣言する企業もあります。
店舗のイメージを作り、良い商品を扱うという付加価値をつける戦略もあります。

 

現在の鶏卵仕入れ価格は現在も高く、このような割高卵との価格差は小さい傾向にあります。
この状況は本年早々から始まり、相場が落ち着いているとはいえ価格は高いことで販売店仕入れ値も高い状況が続きます。

 

ゲージ生産の標準鶏卵は10個230円前後、平飼い鶏卵は安いところで300円程度、高くても400円程度で店頭販売されます。
その差は70円から170円程度と推定されます。
この時期を使い入れ替えをする店舗も9月以降見ることがありました。


今回弊所が調査した大型店である場合入れ替え規模は大きく、1店舗ではなく広い店舗数が入れ替えになり従前の会社は違うところへ販路を変更しなければなりません。

今回の価格では買い控えまで発展する傾向は見られません。

つまりこの価格差は非常に高いと認識されていないという分析もできます。
つまり一定の需要が見込まれ、新参者だから購買層がつかめないということではないということです。


本年の農林水産省が販売店へ指示した需要調査を実施したある企業の一例ですが、この調査が公表されれば広い範囲で同じなのか、地域差があるのか詳細に検討することも可能です。

 

国内の流通店舗は競争が激しく新装開店すれば未来永劫続くような時代ではありません。
この理由に市町村人口の数、近隣の購買人口、世帯所得の高低、世帯の年齢等様々な要因により決まります。

この要因を分析し低価格を求める店舗、付加価値を追求し消費者が好む店舗、自社ブランドを作り低価格から消費者が好む商品まで広くそろえるバランス型の大型流通店舗もあり住み分けはありますが、人口が多い地域ほど大型流通店舗が多い傾向があります。


大型店舗でも指定農場の平飼い卵は販売されており、平飼いは少数派とはいえ今後の時代変化には先駆けている農場になり販路拡大に有利になっている現状があります。
今や平飼い(バーン方式かエイビアリー方式問わず)は準大手農場も参入しており確実に納品でき確実な供給力がありそのことの信用もあり販路が拡大することでしょう。


ゲージフリー鶏卵は普及する過程でどの国も急激に進むことはありません。

 

EU諸国のように政策で進める場合は強制力が伴い早く移行できますが、どうでない場合は価格に差をつけることで消費者が選択し購入することになります。

それは今の日本も同じでゲージ生産の標準鶏卵と平飼いといった鶏への自由がある中での生産をした物とすでに選択できる環境は同じです。


その中に、ゲージフリーがバーン方式やエイビアリー方式で生産したのか農場により異なりますが時代に見合う商品を供給する時代になると思います。
現状販売店の6割程度は標準鶏卵が買われていますが、4割は価格固定型鶏卵で、このような鶏卵が浸透していくようになりそうです。


鶏卵価格は今後置き換えが進む場合1パック280円から400円程度が一般的なると感じます。ですがエイビアリー方式であれば供給規模により価格は下がる余地があると私どもは見ています。

現実1個当たり28.5円程度の平飼い鶏卵は販売されていることを確認しており準大手等等生産規模があるところでは必ずしも高い商品になるとは見ていません。


ですので平飼いの中にも、標準的な鶏卵(価格が低い物)や生産にこだわり高級化する鶏卵と2極化が進むことでしょう。

 

アニマルウェルフェアが浸透した国では、生産方法以外にも自由や権利を制約することに意義を唱える傾向があります。
例えば、ビークトリミングも苦痛を与えるものと認識されます。強制換羽も飢えからの自由に反すると言われています。
どれも日本では昔からの生産技法ですが、浸透が進むとここまで異論が起こる可能性もあります。


そうなりますと、ビークトリミングしないことを検討したり、強制換羽が必要なのか見直しも必要でしょう。
その他にも雄鶏の淘汰をなくすべきという声もあるようです。

 

ゲージでのつつき行動は皆さんもご存知でしょうが白ではあまり見ません。
ですが赤系統はつつくこともあるでしょう。
この点も種鶏メーカーの改良を期待したいところですが、ゲージでない場合鶏の優劣がはっきりすることで、EUではつつきの問題が生産者側より出ており、鶏の減耗を心配すること、鶏卵の卵殻を強化してもらうこと(破損が発生しやすい環境)をあげています。
その他にも高い生産性を期待する声が生産者側にはあるようです。


これ以外に、肉養鶏では照度に関する規定も定め自然光を浴びるような鶏が良い物と先ほどの基準に定めていますので、多くの農場で採用している光の問題も今後対象になる可能性もあります。


生産のための効率化という名のもと進めた様々な技法が今後見直し対象になり、普及と同時に技法の再検討ができる人材有無により反映できる農場や、恵まれず販路縮小や、
生産量の減少による資金力の低下等で市場から撤退も想像できます。


今後は人は財産になる可能性もありより良い人材をどのように活かし反映していくのか試されるような時代になりそうです。

ですが多くの皆さんはアニマルウェルフェアは外国の決めたことで日本の養鶏常識から見てできないから反対だと感じ、何もしないでこの先も存続するという考えもあるでしょう。

 

現時点では消費者も今の状態に賛同し理解を示すと考えるのか、国も断固阻止というスタンスをとり続けると考えるのか。

 

その中には平飼い生産も行い、時代の今という風に乗っている農場も存在する現実。


今までの養鶏界の常識が近未来非常識になるということもあり得る、そんな未来があるのかもしれません。