nogutikusan’s diary

畜産と共に歩む20有余年、今の養鶏の課題や考えをお伝えします。 のぐ地久三事務所養鶏部公式ブログ

ゲージフリー鶏卵の普及 消費者のニーズはどこへ向かうのか

アニマルウェルフェアという言葉が、業界以外で聞かれて1年が経過しました。


消費者の方々が養鶏業者と農水大臣との金銭授受問題から、動物の尊重や自由を定義したアニマルウェルフェアへ関心を持つことに驚きをもったことでしょう。

 

鶏卵は安いものであり、鶏舎改造費や減羽数に対するコスト増加に要した費用を商品に転嫁できるのか懐疑的に見る農場も多いと思います。
業界内でも、鶏舎の改造や品質の問題(鶏糞をつつくことの病気や生食への信頼問題の可能性等)もあり消極的でもあります。

 

長らく日本はゲージで飼養することが主流になり、生食できる安心を消費者に提供したのは事実です。
日本の卵文化にある生食することに貢献しているのは現実であり評価されることです。


しかし時代は変わり、経済動物と呼ばれた家畜類には当然の自由があるべきという考えが普及していくことになります。

 

世界を見ますと、アニマルウェルフェアが定着しているEUでは、平均ですが95%はゲージフリーの鶏卵を生産しています。
スイスは100%ですが、ドイツ94%、オランダ84%とばらつきはりますが高い普及率になります。(1997年時点)
他外国でも国により変わります。
アメリカは20%程度、人口の多い中国では2%程度になります。日本は5%程度になります。


今年度日本では、農林水産省がこのような製品にはどれくらいのニーズが存在するのか流通小売店に調査するよう指示が出ています。

 

現実鶏卵を生で食べる習慣があるのは、日本だけとも言われます。
多くの国は加熱し食べることが一般的で、生で食べることは非常にリスキーと感じています。
ですから生で食べることに驚きがあるのですが、自国で同じことをしたいと考える方は多くはありません。

ですから、衛生面から見てゲージが優れているから継続すべきであるという説明には理解を得ることはできないのが現状で、そもそも鶏の自由を制約することが問題と認識されてしまいます。


アニマルウェルフェアは採卵鶏の制度と考える消費者もいますが、畜種すべてに規約は存在しています。
ですから採卵鶏のみが、家畜の自由に積極的でないということではありません。

 

今回の報道から大手養鶏会社が農水大臣にOIE(世界動物保健機関・国際獣疫事務局)が国際的基準(陸生動物福祉規約)を作る中に日本の主張を取り入れてもらうよう働きかけたことに金銭を渡して依頼していることで、金銭の授受により力の行使(反対する立場の表明)を願うというように見られています。

 

ではゲージフリーの鶏卵が普及するにあたり、消費者に理解を得るような商品になるのでしょうか。


今日は、この製品の普及について考えて見ます。

 

まず、日本に存在するゲージフリーの鶏卵は、「平飼い」「放し飼い」「ゲージフリー卵」が存在していると思われます。
弊所の販売調査ではこのような区分になるように見えます。(調査で確認できる鶏卵の名称又は副題から判断)

 

平飼いと名乗る製品は多くの販売店で見ることができます。
規模的には中小規模程度の養鶏農場が多いようで、初めから平飼いで経営されることを想定した農場に見えます。
販売先は主に小売店、観光地や地域農産物販売所、通信販売、自動販売機になります。
大手流通店でも見ますが、複数店舗に同一に並ぶことは珍しく、A店では○○さんの平飼い卵、B店では平飼いの卵(○○農場)といった4個入りや6個入りの少数個数入りが見られます。
納入数は少なく潤沢の納品ではないようです。
地域農産物販売所ではネットに入れた10個、15個入り包装があり、自販機も同様です。
最近はネット通販に力を入れており、22個入り、45個入り、55個入り等

20個におまけ2個入りといった、消費者心理をくすぐるおまけ〇個入りというキーワードも散見されます。
多くは輸送中の破卵補償として予め多く入れているだけですが、このおまけは消費者心理に影響があるようです。


自社HPを立ち上げるところもありますが、アクセスが少なくなるため、例えば大手フリマアプリから販売しアプリから商品を知り購入される消費者が多いと感じます。


大手ネット通販サイトでも見られますが、多くの農場が出品していますのでやや競争が激化しています。

ですから一定のアクセスがあり購買につながる可能性を探しているように見えます。

 

最初から○○さんの卵を購入したいというより、卵を検索してたどり着いたのか、フリマ購入のついで買いなのかは現在調査をしていますが、ネットによる販売もあり好評に見えます。

1個当たりの単価は高く設定される傾向があり、最高は75円で送料を含むネット販売で見られます。地域農産物販売所では40円前後、流通店も同様になります。

 

放し飼いと名乗る製品もあります。
平飼いとの違いですが、放し飼いは鶏舎(鶏が寝泊まりする家)という屋内スペース屋外(外で活動するスペース)の2つがある施設で自由に行き来できる環境で育てられた鶏卵で、EUで普及する農法の1つで、フリーレンジと呼ばれます。


平飼いは、鶏舎(鶏が生活する屋内スペース)のみで鶏は活動し、地面を歩き、産卵するというもので、バーン方式とも呼ばれます。
報道映像で見る平飼いの典型的な農法です。


この他、ゲージがない鶏舎に多段式の止まり木や家がある構造で、多くの養鶏家が想像する止まり木、巣箱があり、鶏は地面も歩き回り縦横移動できるエイビアリーと呼ばれるもの合わせて2つが平飼いは存在します。

 

販売先は主にネット販売、地域農産物販売所、健康食品を扱う販売店になります。
放し飼いする養鶏家は、平飼いと違うことを強調されるようで、最も鶏にやさしく、製品も自然由来でナチュラルと言った健康と自然を意識するPRが多いようです。


また、健康を意識される消費者からすると「放し飼い」という言葉が健康な鶏で自由に歩き回るというイメージを想像しやすいと感じるようです。
比較的高所得世帯や健康志向の高い購買層を意識しているように感じます。


1個当たりの単価は最も高く最高額は90円で送料を含むネット販売があり、販売所で50円を少し超える額になります。
店舗では10個入りが多く、ネット販売では22個、25個、45個と言った数量で販売しているように見えます。
比較的ネット販売では自社HPでPRするところが多く、他社製品の差別化を強調されている傾向があります。多くは、商品のイメージを大事にされており自然と健康を想像させ、健やかな健康を願う購買層を意識されているように見えます。


また、大手通販サイトを使用して販売しているところも多く、ネット販売は過去言われたのように見る人がいない物で販路は狭いというだけではないように見えます。
特定の購買層は近隣の店舗だけでなく、広く情報を集めこのようなネット販売店にたどり着きますので、ネット販売は必ずしも無意味とは言えません。

 

なお、目的がない購買層を広く集める場合は価格等何らかの目玉になるキーワードがないと集客は見込めませんので、このような付加価値に賛同できない消費者を集めるのには不向きになります。
ネットに詳しい人がいない場合、集客することに一苦労する可能性が高いのですが、ネットは全国・世界から検索され、たどり着きますので、特筆できる物がない一般鶏卵はアピールできないため不向きとされます。

 

ゲージフリーの鶏卵と名乗る製品もあります。
これは、平飼いの一種の農法で生産されるもので、先ほどのエイビアリー方式により生産された鶏卵を差します。
多くは、準大手や中堅以下の養鶏場が一部鶏舎を改良して生産される傾向が多いように見えます。


販売先は、大手流通店、GAPに賛同する大型店、外国系流通倉庫店に見られます。


GAPに関するブログに紹介していますが、近年はGAPパートナーに名を連ねた大手流通店が積極的に買い付ける鶏卵の1つになります。
大型店に納入するため、一定個数を生産できる飼養羽数が必須です。このため準大手クラスや中型規模養鶏場が鶏舎改造し納品しています。


JGAP家畜畜産物認証がある農場で生産される場合やこのような認証がない中規模養鶏場で生産されます。


平飼いには必ずしも認証というものは必須になってはいませんが、認証がない農場産はアニマルウェルフェアを考えて展開する流通店舗に限られているように見えます。
GAPパートナーを名乗る大型店には、GAP認証がない農場産は見ませんでしたので、選定基準があるように見えます。
価格は、平飼いと同じで1個当たりの単価は販売店で40円前後になります。

 

では、一般の鶏卵はどうでしょうか。
日本では90%を超える養鶏場はゲージ飼育で生産を行う農場になり、鶏卵の標準になります。
生産規模は小規模から大規模農場まで幅広く、

小規模は独自の販路を持ち小売りを展開し低価格にならない商法があるように見えます。
たまご街道といった特化した販売所や加工品販売(焼き菓子やケーキ、プリン等)、地域農産物販売所での取り扱いといった付加価値をつけています。


価格は幅広く、一般小売で1個当たり22円前後、地域農産物販売所で25円を少し超えるという状況です。


規模が大きくなるほど、加工メーカーに納品する傾向が高くなりますのでテーブルエッグの比率が低いところは、コロナ渦でご苦労されていることと思います。

 

現在の販売傾向と大まかな価格帯を紹介しました。
では、消費者は今後何を求めていくのか考えて見ましょう。

 

消費者の動向調査では、鶏卵は価格で選ぶという声が最も高く、次いで鮮度、品質という順になります。
GAPといった認証を知る人はほとんどなく僅か数%になりますので、品質の差別化が難しいのが現状です。
今回のようにゲージフリー卵を知る消費者が一定数いると思いますが、消費行動に移るのかは別になります。

それは価格差が大きいことが要因になります。

 

価格で選ぶ消費者がいる一方、一定数の方は付加価値ある鶏卵を買い求めます。

その割合は調査結果で約4割程度です。残り6割は標準的な鶏卵を買い求めている傾向が見られます。

 

国内で生産される鶏卵の5割はテーブルエッグと呼ばれる家庭消費向け出荷になります。

中食・外食向けは3割を超えて、加工向けが2割以下になります。


このゲージフリー鶏卵が活躍する場所(主戦場)は、家庭消費になります。

つまり鶏卵消費5割の世界になります。


この中の6割は標準的な鶏卵が購入されている現状があり、今回のようなゲージフリー卵は、特殊卵と同じ世界で戦うことになりそうです。(残り4割からどの程度シェアが取れるのか)


今後価格変動が生じたとき、価格差が縮小した場合容易にゲージフリー卵等に移行することが予想されます。
ある流通店は、まとめ買いをする顧客を対象に価格調査をしています。
標準鶏卵50個入り1140円(1個22.8円)と、ゲージフリー卵12個入り396円(1個33円)で1個当たりの価格差10.2円の2種類にして販売したものです。


30分間の購買状況は、50入りが14個、ゲージフリーが35個になります。購入をあきらめた方が15名になります。


これだけで見えることは、販売パック数が割高製品に移行しているところです。
標準時の取り扱いは標準鶏卵20個入り456円とゲージフリー卵396円になりますが、多くは20個入りを購入している状況です。
手軽な20個入りで割安なところが購入の決め手になっています。

やはり基準は安さになります。


価格差が小さくなった時は必ずしもそうなりません。


50個では多いので意味がないという方もいますが、裏を返せばいくら1個が安くても購入価格が高い場合は見合わせるという選択を持っているということです。


使い切れないと考える購入者もいますが、もともとはこの店舗はまとめ売り専門店なので、最初から10個入りの鶏卵を買い求める購買層は存在しません。

そのような顧客は初めから一般小売店に流れます。


ですから、単価が高い購入をし支払い額が高くても良いと考える顧客のみが来店します。

ですから出費を気にする顧客ではないということです。


そのような状況で見ても価格を見ていて、その差が縮小する場合はゲージフリーの鶏卵を購入しています。

一度の2つ購入する方も散見されこの店舗は20個入りという鶏卵がいつもあり必要としていることがわかります。
2つまとめ買いされた方は24個で792円になり、通常20個標準卵456円に比べ240円程度の割高になります。ですがその価格差は気にならないということになります。

 

一般小売店では、平飼いと標準鶏卵が存在します。

現状は先ほどの通り鶏卵購入の6割(店舗によりますが7割)は標準鶏卵を購入します。
残り4割(一部は3割台)はそれ以外の鶏卵(ブランド卵)を購入します。


価格はある店舗で標準卵10個入り238円(1個23.8円)と特殊卵10個入り398円(1個39.8円)と298円(1個29.8円)の3種類が存在します。(但し取り扱う品目は合計6種類と混戦模様です)


特殊卵にはビタミン強化卵や平飼い・ゲージフリーの鶏卵がここに属します。

298円は農場ブランド卵(○○さん家の美味しい卵や、○○農場指定の卵)といったものです。
多くは餌にこだわりがあり、コクがある○○配合とか、残留農薬がない飼料を使用等違いをPRします。

 

先ほどの通り6割は標準鶏卵が購入される現状があります。

残りは店舗によりますが価格で選ぶ、いつも同じ鶏卵を購入しているリピータが存在しています。


この勢力から見て、先ほど安くて40円からの平飼いやゲージフリーは価格帯に含まれますので販路が期待できます。
ですが、販売店の卵コーナーの棚面積は標準鶏卵が大きな扱いを受けており、特殊卵は狭い棚に3種類、4種類と激戦です。
今後販売店サイドの理解が必須になりましょう。

 

品質に関して考えて見ます。
日本では、外国と違い生で食べる習慣があります。

鶏卵は毎日食べる方や2~3日に1度以上食べる方が多く、消費頻度が高い日配品です。


その用途を聞く調査はありませんが、生で食べる食文化が存在するため必ず加熱することを目的に生産すると言うわけにはいきません。
日本での鶏卵食中毒と聞けば多くはサルモネラ菌と答えることでしょう。


近年の日本では鶏卵が主因の大規模食中毒事故が発生したという報道はありません。
過去を見ますと直近は2017年山形県サルモネラ菌が原因とみられる集団食中毒が発生しています。
鶏卵が原因と断定できない事例ですが、被害にあった方40名は1週間以内に3割は鶏卵を食べており、うち26%は生食していたとされます。
ですが、鶏卵を食べた7割は加工した鶏卵であることから断定できる状況でもありませんが、加工品でも汚染します。


ですが、サルモネラSEが検出されておりその要因は鶏や豚、牛の腸管に生息し自然界にもいます。鶏卵や加工品、食肉調理品には鶏が多いとされ、サルモネラによる汚染の代表に鶏や卵が代表にあげられます。
今回の事例では、ゲノム解析で養鶏場で検出されたサルモネラ菌株と患者から採取された菌株は同一菌株であったとされます。
なお、ねずみが媒介することでも有名です。

 

日本での鶏卵からのサルモネラ菌検出は2010年で0.003%で3万個に1個の検出とされます。検体はインエッグを対象にしていることから、
養鶏場での感染が鶏卵を通じて検出されたということになります。


数は少なく、被害報道がないことはそれだけ生産サイド、消費者サイドに意識が向上していることでもあります。
生で食べるという文化があり、傷みやすく食中毒になりやすいという認識が消費者にあることで、割卵後の放置や保管に注意していただいていること等その危険性が広く知られたことも大きいと言えます。

 

では、EUではどうでしょうか。
2008年サルモネラ菌保有する採卵鶏の羽数を削減する対策を講じることを目標にしており最終的に2%以下とすることにしています。
保有状況を調べるためEFSAは2005年9月までの約1年間の調査を行っています。


保菌率は国によりバラつき、0%という国と79.5%という国がありました。


このことで2010年にはEU域内で食用卵の流通を禁止する措置を検討し、加工用である場合は殺菌処理を義務付ける検討もあります。
それだけ保菌率の削減は関心が高いことになります。


保菌率が10%を超える加盟国は採卵鶏にワクチン接種の義務化を規定しました。

 

これだけ見ますと、サルモネラ菌による不安は日本とは比較にならない状況であることがわかります。

なおEUの場合、サルモネラは全ての血清型を対象にしていますので大変厳しい条件を課しています。(日本は食中毒リスクが高いものだけを想定していますので単純比較できるものではありません)

日本の大規模養鶏場はサルモネラワクチンの接種を進めてはいますが、汚染度が高いからという目的ではありませんし強制ではありません。現在は管理と同様に推奨されている状況です。


ゲージフリーで懸念される糞と鶏が分離できないことによる汚染拡大を心配する要因の一つです。
日本も同じになることはないでしょうが、衛生環境が悪化する危険性があることを示しています。


日本はサルモネラワクチンの使用は義務化していません。資金力があるところは可能ですが、そうでない場合はワクチン購入費を捻出しなければなりません。


強制換羽も汚染するリスクが伴います。

今後飼養管理が変わる時にはリスクとして考えなければなりません。


またウインドレス鶏舎と開放鶏舎では感染に差があることも注意しなければなりません。
強制換羽をしているウインドレス63農場でのサルモネラ陽性農場は38農場で6割になります。
ウインドレス鶏舎であっても強制換羽していない17農場の場合、サルモネラ陽性農場は4農場で2割少しと少なくなります。

 

今後、アニマルウェルフェアの考えは取り入れることになると思います。
その際、価格はEUのように区分化されることでしょう。
最も高い放し飼い、ミドルの ゲージフリーや平飼い、低価格のゲージ卵となりバーコード化したり鶏卵に印字されるかもしれません。
まだ浸透途上の国では、価格に差があることで一定数は低価格のゲージ卵に需要があります。


制度が進むことで価格転嫁が進んで行くことでしょうが、日本も同じように進んで行くと予測されます。
現実日本でも食品値上げが続いていますが、一定の理解があります。不買運動がおこるわけではありません。


ですから、時間がかかるにしても最終的にはその製品にあった価格に転嫁されていくことでしょう。

 

内閣府は食堂で扱う卵をゲージフリーの物にしていくことにしており、バタリーゲージを使用しない養鶏を重視しているようです。
内閣府 合同庁舎8号館の食堂で運営委託会社が指定した埼玉県のある農場産を使用しています。
メニュー価格に変更はなく、扱い量は30ケース程度と言います。
内閣府からの指示で変更したわけではないようですが、時代は変わりつつあるということです。


農産物は農林水産省監督官庁は違います。ですが国が1枚岩でアニマルウェルフェアの反対を率先しているわけではないということでもあります。


いつまでも、反対で何とか過ごせるのか考えていくことも大事です。

今回のオリパラでも、食材選定にアニマルウェルフェアに適合しない鶏卵会社を使用しないよう求める声明が外国からありました。

それだけ関心が高くなっている国際社会。

 

その時、ゲージフリーか平飼いで飼養するか、放し飼いか。
今回の考察から皆さんの農場規模により変更できるヒントが隠されているかもしれません。