nogutikusan’s diary

畜産と共に歩む20有余年、今の養鶏の課題や考えをお伝えします。 のぐ地久三事務所養鶏部公式ブログ

鳥インフルエンザが疑われる事例とは 通報ルールはありますか

今年の鳥インフルエンザの被害は、昨年に比べ少なく推移しています。 ウイルスの感染力が弱い等様々な憶測がありますが、一番は農場自身の衛生管理が向上したことが大きいと感じます。 今年度の鳥インフルエンザ発生状況は7日時点8県8事例約70万羽の鶏が殺処分されています。 傾向としては関東から西側の地域に見られますが、依然として偏りがあるような状況でもありません。 この先も発生するリスクが残っていることを知り引き続き衛生管理を続けていただきたいと思います。 さて、今年度の発生した農場のうち、香川県の発生事例では関連農場を含め11万羽が殺処分されたのですが、朝日新聞デジタルによれば、養鶏場からの異常報告が遅滞していたことを報じています。 報道では、県の指導となる2倍ルール(過去21日間の斃死が平均の2倍を報告する目安)を遵守していないというものです。 農場から通報があったのは2月5日朝とされます。通常遅くとも前日には異常として認識され(通常と異なる斃死数があることで異常と判断せざるを得ない状況)通報するものですが、今回の事例では1月31日に相当数の斃死があったとされます。 農場側も意図的に隠ぺいしていたわけではないと思いますが、農場での状況・過去の経験則や鳥インフルエンザではないという思い込みから、結果的に通報を遅らせてしまったという状況に変わりはありません。 県の報道は、5日農場管理者から西部家畜保健衛生所に西讃支所に死亡羽数の増加連絡があります。 同日立ち入り検査を行い13羽の検体のうち10羽が簡易検査で陽性であると確認し翌6日農林水産省から確定を受け殺処分となりました。 さて、このような通報の遅滞は数年に1度は報告として聞くことがあります。 昨年の大流行でも関東地方で遅滞事例が発生しています。 理由としては、他の病気を疑いまずはその病気の治療を優先したというもので、飼養管理から農場内に定着している病気を疑うのだと思いますが、結果として見間違いとなり、通報が遅れるという一番よくない事態に陥ります。 弊所のお客様には通報ルールについて数年前から研修としてお話していますが、一番大事なことは「高病原性鳥インフルエンザの症状は、外見でわかることは困難である」ということを最初にお話ししています。 よく言われるものとしては、多くの鶏が死んでしまう、数が多くゲージ内にまとまって死んでしまう、又は場所が特定した状態で固まっている状態等が言われます。 そのほとんどは、数を話していますが、では症状的に何かあるのかと良く聞かれます。 弊所では経験はありませんので、様々な方々から伺う内容や、一般的な症例を基にお話をしたりスライドで視覚からイメージを知り、内容を知り理解するようなものとして研修をしています。 でも多くの農場ではそのような症状を見ることはほとんどありません。 通常農場生涯1回あるのかどうかの事例とも言えますので、実感がわかないというのが本音ではないでしょうか。 では、通報するために何を知り疑うのかということについてお話しします。 一般的に高病原性鳥インフルエンザの症状を知ることは難しいことで、よく言われる異常だから現場が解剖して原因を探すという、通常では通用できる方法が裏目になるということを知っておくと良いでしょう。 高病原性鳥インフルエンザは異常と感じさせる数の鶏が死んでしまうということが症状であるということです。 症状を見ると、数多く死んでしまう、解剖すると腸に変化がある場合があるとも言われます。 過去の報告遅延事例でもこのような腸に変化があるという点から判断を間違えるということがあります。 今回も同じで、報道では「別の病気を疑い、投薬を進めていた」と説明しています。 その結果、通報前日の2月4日は1000羽の死亡となったと言います。 この農場は1日平均10羽前後で、1月31日146羽で14倍相当になります。恐らく規模が大きい鶏舎であっても100羽から死亡することを正常であると認識することはないと思います。 異常ではあるが、解剖してみたら腸に病変が認められた。だからコクシだクロストだと思い込み治療せねばとなるのだと思います。 確かに病変が認められることもあります。 ですが、季節がこの時期で鳥インフルエンザの疑いが否定できない時は、自己診断や管理獣医師へ相談し現認しないまま治療を指示することは間違いと言えます。 獣医師が到着せず、確認せず、状況から許可をすることも感心しません。 確かに冬季の鶏舎への立ち入りは遠慮したいということもあるでしょうし、そもそも当日中に鶏舎に行くことができないということもあるはずです。 では、現場から申し出があるから「投薬許可」だけ与えるのは治療は開始できるでしょうが、結果的にそれは正解になるのかと考えると、少し変わると思います。 弊所では、管理獣医師が参加している研修であっても、通報は同時で構わないが、管理獣医師が現認できないのであれば家畜保健衛生所が優先確認し、獣医師はその結果を受け取ることが望ましいとお話ししています。 つまり、早期通報で早期に動ける側に措置を任せるという原則を徹底してもらうことが、ルールの前提であるとし、その方法を定めていきます。 もちろん先に管理獣医師が到着する場合、診察をして場合により簡易検査を行い陽性が疑われる場合は速やかに通報し家畜保健衛生所の指示を受けるようになります。 通報までの速度は、朝死亡鶏の確認後2時間以内に管理獣医師が到着できるのか確認し、不可であればその時点で、家畜保健衛生所へ通報し経営者が管理獣医師の窓口として情報を共有することにしています。 通報は早く、疑いがあればすぐに通報し行動することが大事になります。 でも家保にいきなり通報は躊躇すると考える農場もあるはずで、ルール上はしなければなりませんが、僅かな猶予時間を与え、それでも時間以内に到着が見込めない場合は、観念して通報に至るようにルールを作ります。 これを猶予時間と呼び、農場が決断する時間としています。 もし管理獣医師が身近にいないという場合は、家畜保健衛生所への通報が一番です。 鳥インフルエンザの疑いであっても簡易検査をして陰性であれば、その原因をある程度までは推察し指導してくれます。 ですから、鳥インフルエンザの疑いだけが家畜保健衛生所の仕事ではなく、死亡鶏が多いだけでも相談に応じてくれます。ある農場では鳥インフルエンザの疑いで通報したところ、 簡易検査で陰性が確定され検体を持ち帰り調べてくれます。この時は大腸菌症が疑われるのでと、このような対策をしてみてはと助言をしてくれます。 用事がなければ相談先でもない家保という先入観から、農場のノウハウが絶対になり結果その判断が間違っていくという事例は今回の農場以外にもあります。 季節がその被害が発生しやすい時期であれば、死亡数が多ければ先に通報になることを知っておき、農場すべての人がその早期通報を徹底できるように研修でも良いでしょうが浸透させることが大事です。 そして遅滞は農場にとってマイナスでしかないということも知っておくと良いでしょう。 農林水産省が公表している「過去発生における手当金の交付状況」では手当金の減額について説明があります。 それによれば「飼養衛生管理基準に違反している場合」「早期通報違反である場合」「虚偽の報告をした場合」には外部有識者の見解を踏まえ2%以上の減額率を算定しています。 また減額の上限はなくそれ以上の減額もありえるとしています。 例えば、採卵鶏農場では、令和2年に「農場で手指消毒や手袋の交換がなく、特定症状確認から1週間以上経過し、簡易検査で陽性を確認するまで通報がない」として、手当金及び特別手当金の6%を減額しています。 また、令和3年では「農場では衛生管理区域専用の衣服の着用がなく、飼養管理者が異常と認知していたにもかかわらず、家畜保健衛生所へは翌々日まで報告がなかった」ことで、手当金及び特別手当金の5%を減額しています。 その金額は皆さんが思うほど小さいということはなく、手当金の意味を理解していただくとわかります。 令和2年は52発生事例のうち27農場は法令違反、通報遅延等により減額交付となりました。 令和3年は17事例のうち8農場が減額交付となります。 通報ルールは農場が自ら定めることはできます。 そのためには早期に通報できるように農場自身が知り、行動をおこすように定めることです。 遅滞なく・経営者の判断を仰がない(現実は無理だと思いますから、経営者は遅滞させる行動を慎み、先ずは家畜保健衛生所へ通報という相談、そして管理獣医師への相談という行動をおこすことを第1にします。 季節によっては農場特有の病気を疑う前に、その疑いを農場自身が解明・治療を行うのではなく家畜保健衛生所に委ねることが大事になるということも想定してください。 まだ散発発生が続く鳥インフルエンザですが、皆さんの早期通報ルールはどのように定めているでしょうか。 まだ定まらない、臨機応変で動く等いろいろ理由はあるでしょうが、通報ルールは飼養衛生管理基準にも定められており、通報が遅いほど後々農場の再開に支障がでることもあります。 安易な考えが、実は後になって大変なことにもなりかねない早期通報は、他人事として考えるのか、実情から早期にできることを想定しておくのか、自身の都合の良い考えではなく、元になるルールを自身に合わせる思考を持ち日々取り組みを続けていただきたいと思います。