6月1日より労働安全衛生規則が改正され熱中症による健康被害防止と早期の発見、そして重症化しないための対応が必須になります。
そんな仕事は存在しないという農場責任者もいますが、草刈り、鶏舎管理、堆肥舎での作業は高温にならないでしょうか。
恐らく風の通りが悪く熱が溜まる場所、高温管理が外気温と相まって更に高温になる場所で汗だくになる鶏舎、猛烈に暑い外作業等容易に想像できると思います。
それすらわからないという方は、汗をかきにくく暑さがわかりにくい世代なのか、そのような作業に従事しない事務方責任者ではないでしょうか。
いずれにしても自身は関与しない又はそれがわかりにくい考えのいずれかになります。
問題は、そのような方が作業を指示させ、無関心であるため発見が遅くなり、最悪は偽装するという流れになりやすいということです。
ある農場では、夏の草刈りで斜面で作業している際ふらついたのでしょう、横転して転がり落ちます。
外見を気にする農場でしたのでヘルメットを着用させていましたが、従事者は暑いので着用しません。
そして暑さでめまいをおこし転落して頭部を怪我します。
原因は熱中症によるものでしたが足を滑らせたのが要因で、ヘルメット着用をしなかったと主張し怪我は自己責任であると言い治療費等を持つことはありませんでした。
つまり、外見を整備してこのような問題点を意図的ではないにしろ可視化させないようにする農場もあります。
夏は暑いが俺はめまいなどしたことはない。
この自身の基準が非常識になってしまったのですが、従事者は退職して表面化せずその責任者も自身の基準の誤りを気づくこともなく平穏に過ごしてしまい法令改正を他人事、余計事と感じてしまうという所もあるかもしれません。
でも時代は変わっているのです。
従事者を労わる思考が今の基準です。
今の快適な春を基準にせず、猛烈に暑い夏を想像してみてください。
さて、この法令は熱中症に至らないように体制を整備して、そのような症状が疑われる際にはどのように作業から離脱させ、冷却し、必要に応じた医療機関への搬送を明確に定めておくマニュアルを整備するものです。
そんな面倒なことをしなくても、休ませればいいだけのことではないか。
そういう声を上げる農場もありました。
一昔は、暑ければ涼しいうちに草刈りさせるとか、作業者に一任した「適度に休みながら作業せよ」といった曖昧な口頭指示が主流でした。
しかしこれだけ猛暑になり全国で熱中症という被害が聞かれるようになり、作業者一人でどうにかなるような時代ではなくなりました。
そもそも労働安全衛生法は労働者の事故や危害を防ぐのは雇用者(農場)であると定義しているわけであり、それをまあ気をつけてくださいだけでは無責任でもあるわけです。
畜産業で熱中症による大きな事故は報告されませんが、例えば建設業や草刈りを行う作業所ではわずかな事例かもしれませんが死亡事故も発生しています。
その多くは、熱中症により意識の混濁そして死亡というもので、発見が遅くなり気づいた時には意識がなく緊急搬送され亡くなるというものです。
労災を使えばよいという方もいますが、問題はそこではなくなぜ、安全配慮をしなかったのかということです。
暑いから各自適切に休めばよいではこうなるのです。
なぜ意識が混濁していくのか。
そこまでのプロセスを知らないからこそ「適時休めばよい」という他人任せで責任を放棄してしまうのです。
労働安全衛生法ではすでにそのような場所で作業させる場合、作業員に対し近くに水や塩を配置させるよう決められており、このような事例に至る時多くは常備していないことから経営者や管理者に対しこの不適性を指摘して指導や送検をおこなうわけです。
このような話をすると昨年までは、それは作業者が用意して自己責任で補給するだけの話だろ、何で会社がそこまで気遣うのかわからん。
そういう方が多かったように思います。
しかし、多くは法人化して身内ではない方を従事者にしているわけです。
つまり法令順守が当たり前になっているという前提を忘れていることで、いつまでも家族経営の思考から抜け出せないがため大きな事故になるという事例は、畜産業には特に多く見られるのです。
では、今の考え思考をアップデートしていきましょう。
6月1日施行の今回の改正は 熱中症が疑われる人を見つけるための方法の構築、その後の対策のチャートを作る等見えるような方法を構築する、できるだけ一人きりにさせないという考え方。
熱中症になったらどのように作業者に対して対応するのかという視点で構築する必要があるということです。
まずどのような作業が該当するのでしょうか。
法令ではまず定義として「暑熱な場所」とは、湿球黒球温度(WBGT)が28度以上又は気温が31度以上の場所をいい、必ずしも事業場内外の特定の作業場のみを指すものではなく、出張先で作業を行う場合、労働者が移動して複数の場所で作業を行う場合や、作業場所から作業場所への移動時等も含む趣旨であること。
と定義しています。
つまり暑い場所とは農場内に限らず移動している時も該当するということです。
多く見られますが、農場移動用用軽自動車、鶏糞散布車のエアコンが故障している場合は暑熱な場所での作業であるということです。
鶏糞散布車でエアコンが使えないという農場があります。
この場合、積み込みの堆肥場は熱がこもり暑い場所で作業し、運搬中も暑く、散布先の畑も炎天下で暑いという流れになります。
多くの場合運転者(作業者)は大汗を流しているはずです。
今までは草刈りだけ意識していれば良かったのかもしれませんが、この意識も必須であるということです。
この事例では、作業者が畑への運搬中意識が薄れ畑ののり面へ車両が転落したという事例があります。
「暑熱な場所において連続して行われる作業等熱中症を生ずるおそれのある作業」とは、上記の場所において、継続して1時間以上又は1日当たり4時間を超えて行われることが見込まれる作業をいい、非定常作業、臨時の作業等であっても上記の条件を満たすことが見込まれる場合は対象となること。
としています。
この事例では、草刈りをさせるのであれば、4時間を超える作業を想定している場合対応策を必要とするわけです。
そして作業は1時間に1回は休憩させる等回復時間を設ける等の配慮をしましょう。
よく聞くものとして、他の従事者が働いているのに休ませるのはおかしい。
休憩は全員同じにすべきというものですが、炎天下の作業と日陰の作業を同じにするのは負荷から見てどうでしょうか。
みんな仲良く公平で平等というのは正しい思考でしょうか。
また先ほどの鶏糞散布の場合もこれに該当すると考えてよいでしょう。
熱中症の症状の重篤化を防止するためには、熱中症が生じた疑いのある者について、早期の作業離脱や身体冷却、必要に応じ、医師の診察等を受けさせるための かつ的確に行うことが重要である。
と定義しています。
①熱中症の自覚症状を有する作業者や熱中症が生じた疑いのある作業者を発見した者がその旨を報告するための体制を事業場ごとにあらかじめ整備しておくこと、
②熱中症の自覚症状を有する作業者や熱中症が生じた疑いのある作業者への対応に関し、事業場の緊急連絡網、緊急搬送先の連絡先並びに必要な措置の内容及手順を事業場ごとにあらかじめ作成しておくこと、 ③当該体制や手順等について作業者へ周知することを事業者に義務付けるものであること。 なお、作業者に熱中症が生じたことが疑われる場合には、WBGT値や作業時間等にかかわらず、作成した手順を踏まえ、適切に対処することが重要であること としています。
具体的には、②のように連絡体制を構築するとともに、重篤化しないように早期に発見して、どのように対応するのかチャート図にしてわかりやすく構築すると良いでしょう。
農場HACCP認証の緊急連絡網を作成し、万一の際にはチャート図を作りわかりやすく対応し医療機関までスムーズに流れるようにしておくということです。
JGAP畜産であれば、従事者の労働安全にこの事項をまとめておくと良いでしょう。 そして大事なのは従事者が全て知っているように周知することが大事です。
弊所が調べても5月20日時点でこの事例を説明している養鶏場は多くはありません。
法令意識の高低が見えるように感じます。
しっかりしているところでは、HACCPの緊急連絡網に整備して改めて告知している農場もありますし、JGAPのある農場では労働安全の改正から改めて整備して告知を済ませている農場もありますが、アップデートできていない農場はいまだ何も構築出来ていないような感じです。
できるだけ文書配布や休憩所での掲示、作業時の掲示をすると良いでしょう。
口頭も問題はありませんが知った知らないといったトラブルにもなりますので、メールでの配布や文書配布、掲示といった形が残る周知を行うようにしましょう。
夏が間もなくやってきます。 暑いから仕方ない、自己責任、気を付けてくれでは農場の思考から見て問題でもあります。
この根底は農場自身のアップデートができていない、常識は農場での経験であるという狭い視野が根底です。
今の時代を知り、なぜこの熱中症が問題なのか、それは農場で改善できるのか、できないのならそうならないように手順を作り防止、被害の最小化といった思考が必要になっています。
明日は施行日になりますが、本格的に暑くなるのは6月の梅雨時期の高温多湿の時から9月中まで続きます。
時間は少なくまだ構築がないのでしたら、先ずは農場で発生しないためにはどうするのか、既存から活用できる方法がないのか事故のない、従事者を労わる視野で農場を見てください。
よく聞かれますが、この法令改正による罰則はあるのかと言われます。
この熱中症義務によるものはなく、既存の労働安全衛生法の適合違反で指摘を受けます。
多くは罰金か悪質であれば送検され拘禁刑となります。
ですから違う形で指導を受けますので何もしなくても良いという思考は持たないようにしてください。