nogutikusan’s diary

畜産と共に歩む20有余年、今の養鶏の課題や考えをお伝えします。 のぐ地久三事務所養鶏部公式ブログ

令和4年の大流行 鳥インフルエンザから学ぶべきこと

読売新聞は17日「鳥インフルエンザで殺処分した死骸、予定地に埋却できず計画変更325万羽の処理に影響」という記事を掲載しました。 その中には鳥インフルエンザが発生した26道県のうち12道県で埋却に問題が生じたとしています。 記事には地下水など環境への影響が懸念されるなどで325万羽の処理に影響があり2か月程度の遅延処理があった事例もあったとしています。 農水省によれば畜産業者に対して鶏等の死骸を埋却や処理施設を確保し都道府県に報告することになっています。その報告では全国の養鶏場のうち95%以上が確保済みと報告しているとしています。 記事では、支障があった26道県に対して処理状況を尋ねたところ予定地では死骸を処理することが出来ず、別の土地を用意したり、焼却に切り替えたとしています。 変更理由では、予定地で地下水が出て埋却することへの環境問題、面積不足、近隣に民家や河川があることによる施行規則違反、自治体による事前確認や指導不足が不十分な事例もありました。 このため今年度から農場と都道府県が事前に試掘調査をした場合には費用の5割を支援する制度を導入し、確実な埋却地の確保へ強化することにしています。 この記事を見て思うのは、農場側がいかに必要な土地を確保できるのかという点が要になっているのかというのがわかると思います。 多くの農場から聞く意見としては、農場側が必要な面積を用意できるわけがない。自治体が責任をもって県の所有地の使用や焼却をするべきであるという意見もよく聞きます。 規模が大きくなっているのだから殺処分ではなくワクチン接種をして殺処分を防ぐような新しい取り組みをすべきであるといった意見もありました。 筆者は養鶏の業界にいて思うのですが、鳥インフルエンザによる被害は確かに農場にとってとても苦しいことですから、被害者であると思いがちです。 報道もそのように報じます。確かにそうでしょう。 でも、鳥インフルエンザによる被害は周辺から空気感染して鶏舎に入り込み被害があるのか。そして農場の衛生対策は本当に充分であるのかという視点で本当に語られているのかという点です。 確かに何万羽100万羽という単位で鶏がすべて殺処分されます。鶏達の命が一斉になくなる、養鶏家の苦労が始まる、そして相場の高騰から消費者のご苦労が続くという話題になるのでしょう。 最近は感染力が強いからという理由でしょうか。2年連続して鳥インフルエンザによる被害がある農場も現実あります。 これは非常に深刻だと私は思います。 それは、感染力が強いからではありません。 むしろ農場の運営がどうなのかという視点です。 疫学調査の概要は発生があると数か月後に公表されます。その中の多くは調査時点では指摘する事項は特に記載されていない事例も見ますが、多くは通報が遅い、鶏舎の修繕が遅い、野生動物が侵入しやすい不備、従業員の靴の履き替えや消毒への対策が十分ではないといった事例も記載されています。 そして従業員の消毒への意識についてはどの調査でも記載はありません。消毒設備はある、立ち入り禁止の看板はある、記録類は整備されているといった目に見えるものは聞き取りや目視で確認できるので記載はありますが、では人はその設備を本当に活用されているのかというとそれは意識がある従事者だからしている(はず)と答えるはずです。 でも衛生対策の根本は何ですかと再度認識してみると、従事者が外部との遮断がしっかりできて鶏舎に入り作業をして汚染物を入れない、広げないという意識が根本にないと成立しません。 だから作業員は鶏に一番近いところを携わっているわけですから十分な対策が必要になります。そして野鳥や交差汚染しやすい箇所に鶏以上に近づく危険な立ち位置でもあるのです。 でも目には見えませんから、消毒設備はある(だから消毒して遮断しているはず)、立ち入り禁止の看板はある(だから部外者は入らないはず)、記録類は整備されている(だから万全であるはず)という良い視点で物を見ているという姿にも見えます。 そして2年連続繰り返す農場も存在する。 それだけウイルスが強度化したのでしょうか。そうであれば近隣農場は被害続発になるのですが、そうではないというのは何か説明ができるのでしょうか。 令和2年の大流行では確かに1農場を中心として近隣農場の被害もありました。農場の行き来がないのに道路を隔てた別会社の農場にも飛び火したという事例もあります。 では4年度もそうであったのか。大きい農場道隔てたよその農場も発生したという事例は多くはなくむしろ少ないと感じます。 この差は何でしょうか。そして2年度被害があった農場は4年度も発生したのでしょうか。 どうも十分説明できない被害発生事例が多く見えます。これは渡り鳥のウイルスルートが違うから、弱毒化しているから等理由をつける傾向もあります。 確かにその通りなのでしょう。でも説明が十分できないことから「ある可能性がある、発生経路が風の流れにより違う」では少し対策への影響に支障があります。 つまり、経路がわからないのだから機材をそろえて、法令を遵守しましょうでは、これだけ揃えたのだからやっても十分やれなくても同じと解釈してしまう従事者もいます。 発生するかしないかは運しだいということに聞こえます。 正直これは運でどうのこうのという話題ではありません。遮断できるのか、できていないのかの違いで、発生したしないの話で運という要素はありません。 ルーレットゲームのように赤が出る、黒が出るという話と同じではないのです。よく対策しているから黒しかない、不十分だから赤になるという話です。 感染するかわからないなら、今までと同じで十分だろうという意識も芽生えます。その意識は渡り鳥もいない何もない時期であればいいでしょうが、このような緊急時ではどうでしょうか。 従業員は皆さんの指導方法で大きく変わります。まあ冬は家保がうるさいから石灰撒いてね。消毒していてね程度の説明では、冬はそれなりにしていれば良いという認識しかありません。 農場責任者は鶏が殺処分され無収入になるという危機感はあるでしょうが、従業員はわかりません。「大変だね。それよりも25日は給料日だね」という認識です。考えの視野が違うのです。 ある養鶏家は県の養鶏会合で2年連続発生した農場の経営者が出席し涙を流したという話をしていました。 その涙の意味は分かりません。 無収入になったという苦しさの涙なのか、わからないけど発生が継続したという苦しい涙なのか。 でも疫学調査概要を読むと、その農場には鶏舎に不備がある、作業員と交差汚染が予見できる施設には防鳥ネットがなく野鳥が出入りしていると指摘されていると、その涙は何だろうと個人的には見えます。 野鳥は正直どの農場にもいます、カラス、セキレイ、スズメといった物は農場に限らずいますし、周辺や上空を飛行しています。ですから野鳥がいるというのは普通のことであり、だから何ですかということです。 問題はその野鳥からどのように鶏舎にいる鶏へ移っていくのかということだけです。野鳥は鉄砲で四六時中追い払うわけではないからです。 先ほどの話ではないですが、では従業員はその鳥インフルエンザによる被害をどのように想定していたのでしょうか。 経営者が従業員として働く農場は多くはありません。恐らくほとんどは監督者である責任者にその仕事をさせているはずです。 では、経営者は無収入の怖さはわかるにしても、では責任者は、作業員は同じですか。ということです。 一昔と違いその農場で鳥インフルエンザが発生すると周辺数キロは鶏卵出荷は止まりますが、以前ほど長い期間にはなりません。多くは翌日か翌々日には再開できているはずです。 ですから収入停滞は短期間であり問題にはなりませんから、厳しい目をする養鶏家はいません。 でも2年連続発生してしまうということは少し課題になると考える養鶏家も少ないですがいますが、多くは残念ですが他人ごとになります。 だから大変と思うが関心がないのです。「あの農場が被害にあった!うちはどうなのか?」という視野はほとんどありません。多くはうちは感染しないと信じているからです。 組合でその農場を守るような議論はなくそれよりも時期の鳥インフルエンザはどのように対策をしますかという話題になるでしょう。 今回のように埋却に問題が生じたということは、私たち養鶏家も考える必要があるということです。 国がやるべき、ワクチンを使用すべき、そもそも短期間での殺処分は不可能であり感染遮断の意味はないという意見。 多くは養鶏家の意見ですが、本当にそれは正しい意見なのでしょうか。 法令を変える力があればよいのでしょうが、陳情が精一杯でもあります。 陳情は議員さんの間では聞くという意味で法令へ何か働きかけるという意味ではないそうです。 であれば従うというのが現実です。 不満は不満で様々あると思います。 でも今は何も変えられません。 であれば従い十分な対策をするしかないのです。ほかに選択肢はありません。 厳しい話ではありますが、埋却地に右往左往している農場もあります。 筆者もそのような農場を見ます。 でも十分な土地を用意して埋める準備は農場がする。それが法令で示した義務です。 それが用意できないから、県所有地を使うべきでは少し残念です。 そんなものできない、お金がない、脆弱な経営では難しいという法令以前に自身の財布事情を話していてはどこまで行っても平行線になり意味はありません。 やるしかないのです。 それができるのか、できないのかという違いです。できないから土地を借りたり(緊急時は借地として借り埋却する地主との契約)して負担を小さくするという発想があり実行している農場もあるのです。 できない理由はあまり意味を持ちません。 令和5年の発生はどのようになるのでしょうか。 2,4年と大流行でした。偶数年だけなのか。そうでないのか。 あまり時間はなくなりました。皆さんの埋却地は適正な土地でしょうか。 そして、それ以前に発生させない対策を構築されているでしょうか。 埋却は発生させない意識を持って取り組むことで使用する土地にはなりません。 人の意識という課題、そして土地の確保。 短い時間で多くの課題にどう向き合っていきましょうか。