nogutikusan’s diary

畜産と共に歩む20有余年、今の養鶏の課題や考えをお伝えします。 のぐ地久三事務所養鶏部公式ブログ

活気ある農場と閑散とした農場 その差は農場の能力差と関係があるのでしょうか

良く尋ねられるのですが、活気がある農場は本当に生産性や農場の雰囲気は明るいのかと言われます。 確かに様々な農場や研修会に参加しているので、多くの養鶏家さんとお話をしますし、そのうちのいくつかの農場は現地研修もする機会がありますので農場もお伺いしています。 農場内の組織員の方々と接しますので、確かに活気ある農場と、そうでない農場があるのも事実です。 自身の農場だけを見ているのであれば、明るい・暗い、活気ある・陰気感がある、生産量が高く優れる・まあそれなりの生産量等それぞれに違いがあることはわかりにくいと感じます。 何等かのグループに参加している農場であれば、そのグループ内で、明るい・暗い等比較できるかもしれませんが、その比較に意味はないと感じます。 逆になぜ気になるのですかと尋ねると、「挨拶できない従業員が多くてね」と言います。そして、その農場ほど生産量が過去数年間比較しても少なくなっていく傾向があるのですよ。と続けます。 その農場責任者いわく、いろいろなビジネス本を見ると、挨拶できない人は仕事が不得意の傾向があるらしい、挨拶・朝礼をしない会社は伸びない、トイレ清掃から気づけが生まれて生産性が上がる等、一見その通りと思わせるような見出しの内容です。 だから活気ある農場にさせたいのだと言います。そのためにも現状はどうなのかと尋ねてくるようでした。 活気があるから従事者の意識レベルが高く、生産量が高くなるのかと言われると懐疑的ではあります。 でも、活気がある農場ほど鶏、飼養管理、設備、堆肥、鶏病といった広い範囲の話題をしているのもまた肌で感じることでもあります。 逆に閑散とした農場では、今日の作業を終えることに趣をおいており、特に鶏や飼養管理といった改善のきっかけになるようなキーワードの話は出てきません。 だから活気がある農場にしたいと感じるのではないかと思います。 では活気があればすべて解決できるのか、農場を見ている状況から考えてみます。 そもそも活気があるとは何なのでしょうか。 魚河岸のように「いらっしゃい!旬のサンマ、イワシだよ~」のような、生き生きとした元気な感じを想定しているのでしょうか? 農場内を走り回り、せわしなく働く作業の方々なのでしょうか。 小売店のように従業員がお客様とすれ違うたびに「いらっしゃい」と、にぎやかな掛け声をかけることなのでしょうか。 多分それだけであれば、朝挨拶を大声ですればよいだけのことだと思います。 活気がある農場の多くは「組織内の風通りが良く、課題に対して解決させたい風土がある農場」だと感じます。 つまり、魚河岸がいれば解決できるわけではなく、挨拶できないから劣化すると言うことではないとみている者からの正直な感想です。 活気づけるには、活気を与えるのではなく、風土・組織から変えないと解決できません。 ある活気ある農場は、先代さんから息子さんに経営が代わります。 大学を出て獣医師免許を取得して会社に戻り右腕さんに師事し、農場内の仕事、鶏を見ることから学びます。 当然1年生ですから、社長の息子という目線で見られません。仕事ができる右腕は仕事を教えることを優先しており基本を教え込みます。 鶏の関わるミスは、他の従業員と同じように叱責します。仕事が円滑に進むよう、中堅と行動させてサポートも徹底しており、接し方は他の従業員と変わりません。 休憩時間も、缶コーヒーを互いに飲み世間話から先代の苦労話からここがダメななんだというグチまで聞かせます。 息子も苦笑いしているところも多いような感じでしたが、人による違う接し方をしない右腕の技量を吸収しているようでした。 そんな彼も6年程度右腕と行動して、一人前まで育ち先代が70歳になった節目で経営を引き継ぎして新社長となります。 農場従事者も叱責され育った新社長に異論を唱える者はいませんし、右腕も満足しています。 「あんな鼻たれ小僧が社長だとさ」相変わらず本音なのかわかりませんが、聞かせていますが満足しているようでした。 時代は高床式からウインドレス鶏舎へ時代が変わる平成のことでした。 ウインドレス鶏舎は自動環境維持システムで、高床式と違い技術はいらないとされました。 ですがこの農場は環境を作るには技術がないとただ機械が動くだけになる無用の長物になりかねないという考えがありました。 これは右腕の技術に触れた新社長のしっかりとした意識が感じられます。 設定を確認し、風の流れを見て、環境の出来不出来を見たうえで鶏を入れていきます。 当然微調整は必要になりましたが、食下量、動力費、不要な雇用を防ぐことができた稼働諸費それぞれ高床式鶏舎とは大きく異なる費用の削減ができました。 また、しっかりとした環境設定ができたことで生産量も向上していきます。 このような農場では、右腕が部下にしっかり教え込むことで、部下は右腕とは違う柔軟な発想力と想像力を発揮して、右腕に立案し右腕が経験から修正させて実行するという農場になります。 恐らくこれが、社内風土になり話して・考え・行動して・微調整して・農場の力量が向上したという、先ほどの「活気ある農場」となったのではないかと思います。 活気ある農場では、議論や考えを大事にしています。 これは発表することで上司へのアピールでしているわけではありません。 この点をこのように改善した方が絶対に良い、鶏を飼養する温度はこの程度まで上げても良い等さらにできることを疑問として感じ、聞いているという感じです。 ですから議論していると見られがちですが、本当は疑問を聞いているという感じのように見えます。 その疑問にしっかり答えられる右腕や中堅がいる農場なのだと思います。 活気ある農場にするには、魚河岸になるのではなく「考えられる中堅と右腕がいる」ということが必須です。 そして、経営者も考えることを率先していなければ風土も変えられません。 そのような風土もなく、活気ある農場をするといってもまず無理でしょう。 まず、風土、そして応えられる中堅と右腕が存在しているという順序がなければできません。 形から入るではなく、形がなければ展開できないのです。 形がないのであれば、作ってから入るのです。 ない状態で形から入ってもできません。その点に気づけないといつまでたっても何も変わらず時間と年月が過ぎるだけで成果もありません。 ここまで見ていただいて感じたと思います。 活気ある農場の能力差はあるのかという点ですが、答えは差はあるということになります。 それは魚河岸だからではありません。 そのような風土だからです。 考えて前に進んでいく姿勢が随所に見られ、それが活気あるように見えるのです。 良くしよう、生産を向上させようという前向きな姿勢が思考力を鍛え、粗削りした答えが見つかり、それを右腕が修正させて具体化させていきます。 これによりある程度の失敗が事前に回避でき成功への精度が高まります。 これが自信になり、さらなる改善を求めるのです。 人が育つには、考えるきっかけから始まりそれを修正できる人材が助言し、それが知識になります。そして実行して、成果を確認して、次の思考が発生していくのです。 これが人材サイクルなのですが、活気ある農場はこれができているのです。 そうなると活気を求めるのであれば何が必要なのかわかると思います。 形があるのか、なにのか。 風土はどうか、様々な視点で見てください。 ブログ「note」には農業景況調査から人材育成について調査した結果を掲載しました。 関連する内容になっていますのでご覧いただき、養鶏農場が感じている人材育成について、皆さんの農場と重ね合わせてください。 新しい視点がきっと生まれると思います。 鳥インフルエンザが心配する季節でもあります。でも大事なのは、どのように心配するのかということです。そのためには、農場の皆さんとどのような議論をしているのでしょうか。人の意識は何が要因で変わるのか・浸透できるのか。そんな視点で見ると活気ある農場という話題も、その風土の大切さがこのような対策にも有益になると思います。