nogutikusan’s diary

畜産と共に歩む20有余年、今の養鶏の課題や考えをお伝えします。 のぐ地久三事務所養鶏部公式ブログ

鶏卵の品質クレームにご注意ください 高温多湿の時期は鶏のみならず鶏卵にも気を配ってください

今年の梅雨入りはとても早く、沖縄から東にかけて広い範囲で例年と比べ早い梅雨入りをしています。


梅雨が長い場合の多くは梅雨が早く終わるわけでなく、例年と同じかそれ以上の遅さになる傾向が高いとされますので、
農作物の管理に注意が必要と言われますが、実は私たち養鶏農場も気を付けたい時期でもあります。


気温が高く湿度が高い時期は、鶏たちにとっても大変厳しい時期にもなります。


ご存知の通り鶏は汗をかくことができません。
呼吸によって水分を冷やし冷やす行動を取ります。これをパウンディングと言いますが鶏の冷却行動の一つです。
それ以外にも、冷たいものに触る行動、羽と体に隙間を作り風を入れて冷やす行動もあり暑い時期を努力して作り過ごしていきます。
このような行動をしているときほど餌の食べる量が減り産卵の減少や体重の停滞や減少、鶏卵の重量の減少も見られます。

 

鶏が大変と感じるときほど、生産される鶏卵の保管状況も鶏同様に意識する必要があります。


そうです。
腐敗卵の混入です。

 

鶏卵の保管により品質が劣化し苦情に至る事例ですが、消費者から毎年このような事故が発生するわけではありません。
しかし、自社GPセンターを有していない農場では、出荷先GPセンターから品質不適卵の混入が通報されることもありましょう。


この数は、農場によりますが全くない場合や、数年に1回は発生しているところもあることでしょう。


自社GPセンターでは社内で情報共有されるため社外にこのような事例が広がることはありません。

 

問題は社外に出るから問題で、でなければ問題ないということではありません。

 

鶏卵は中身を食します。

鶏卵の強度感じたり形を楽しみ食するようなものではありません。


ですから鮮度を明かりでかざし判断するわけですが、卵殻で判断するのは困難です。


一般的に卵殻で判断できるときは日数経過から汚れ・変色から判断、最悪は鶏卵のトレーから原卵を移動したときの破裂もあるかもしれません。
いずれもGPセンターでの判断より生産現場での巡回で発見できる確率の方が高いはずです。


その原因は、死亡鶏での滞留が長いことで品質劣化が生じる場合、ゲージの勾配がフラットに近いため鶏卵受けや採卵ベルトに鶏卵が乗らないことで結果滞留してしまう場合、ひどい場合は、ゲージが破損し勾配問題以前に逆勾配になったりと鶏卵を心配するような意識がない農場も存在しています。


私がお伺いしご指導する場合、宅配の注文品を段ボールから開けたときイメージと違う時その心理は商品の売り切れと違い大きいです。
つまり消費者の意識は大変低くなります。

ですから当たり前の1個十数円の鶏卵ではなく1個1個は苦情のないのよう気持ちを持ちましょうと話します。


鶏卵は、一昔前までサルモネラ食中毒の主人公でもありました。


鶏卵を割卵されしばらく放置され調理したら多くの人たちが食中毒にいたりその調理施設は営業停止、原因は鶏卵と言われました。
いまでも発生数は少なくなりましたがまだゼロになるような根絶があるわけではありません。


つまり私たちはお客様に危害を与えるような可能性を持つ製品を生産しているという認識を持つ必要があります。


今はサルモネラワクチンも接種されるので安心という方もいます。

確かにその通りですが、サルモネラの心配もありますが、そのワクチンで腐敗卵の生産が軽減されるわけではありません。


HACCP構築指導の際、危害を考えその予防策を考えて頂くのですが、このような認識を持ち共有していくことがまずこのような根拠ない安全という意識をまず変えることができます。


根拠のない安全は足元をすくわれる原因になります。


鶏卵の腐敗は公表を見る機会は多くはないと思います。
一般的に都道府県の食品回収に関する告示で明らかになったり、販売店での回収依頼が良く見るものではないでしょうか。


確率が低いから対応するものではない。


そう考える方もいることでしょうが、製品トラブルは品質クレームと呼ばれ、回収する義務が生じます。
腐敗卵と言えばまだ言葉は易しいと思います。
業界では「腐り玉」と言います。

 

回収すればよいという問題ではありません。


回収するということは、その問題の日付だけ回収しそれ以外は通常販売すると言うわけにもいきません。
一般的に苦情がある製品を販売者は好むとは限らず、消費者からのクレームの深刻度(腐敗卵を消費者から申し立てたとき)により販売見合わせは普通のことです。


それが、その店の指定鶏卵である場合は指定品の取り扱いを停止又は廃止も十分にあり得ます。
逆に考えれば、お客様から苦情が来た商品なのにその日以外の物は販売できるはずだとは言えないでしょう。
同じパッケージには腐りタマゴ、もう一方は安心だと思いますでは、販売店の信用にかかわります。


ですから生産者の考える意識と販売者が考える目線は違うのです。


現実、店舗は1農場のみの取り扱いということはありません。
複数の地域、農場の鶏卵を取り扱い鳥インフルエンザ等供給停止にも対応できる体制を整えています。
ですから、欠品が生じてもそう大きな問題にはなりません。


問題は欠品があることで取り扱い終了または代替農場に置き換えということもありえますし現実はそのことも珍しいことではありません。
その原因として他製品との差がないこと、消費者から再販売を期待されるほどの製品でないこと、販売先の信用低下が回復できるような信頼にならない場合もあります。


それだけ、昔と違い「ただ卵があれば消費者に支持され少しの事故でも問題がない」と安易な考えができなくなったということです。


代替品が星の数ほどあるこの業界には甘い考えの農場から市場より退場をさせられるという覚悟が必要なのです。

ですから、危害を考えることができない農場は当然ですが、問題を見つけることができず先ほどのような甘い認識で商売を継続すると言う状況に至るのです。


確率が低いものにお金をかけないという綺麗な言葉で片付ける方もいますが、

要はうちはそのような事故にはならないからそんなもん位に金を払えるか。

ということでしょう。

 

払う払わないはその農場の勝手ですし問題ではありません。


ただ、事故はある日突然発生し公表され、信用を無くし販路を狭めていきます。
実際はある日突然ということはなく、GPでの通報、消費者からの情報で策を取らず何もしないことで傷口を大きくし取り返しがつかなくなるというもので、
その農場取り扱いがなくなることで、他生産者が潤うという業界としては問題ではないですが、ただ発生農場だけが損を被り退場していくと言う市場原理が働くだけです。


そのような農場ほど、あの時こうすればよかった、通報を真摯に受けて対処すればよかった、長い商い関係でこれだけの事故で停止になるとは思わなかった。
という言葉だけは聞きます。


しかし「覆水盆に返らず」何をしても手遅れで手当ては出来ません。
ただ回収しその製品を廃棄するしか時間は残されていません。

 

1個十数円の鶏卵でここまで言われるのか、と感じることでしょう。


ですが、世の中1個十数円の商品は他にもたくさんあります。


その商品1個も1つの事故だけで同じように苦情に至り、ペナルティーを受けることになります。
食品は安全と安心で成り立つものです。
価格の高低差でペナルティーが決まるわけではありません。


いかに安全を意識して生産をしていたのか、その改善案は現実的であり販売店が納得できるのか。
一度崩れさった信頼を再度積み上げることは容易ではありません。


生産者と販売者が長年の仲であってもそれとこれは別の問題です。

お金を得るための商売の間柄にはそんな私情はいりません。
そんなことしたら会社が破綻します。


ですから、いらない心配を作るような農場運営を行うより安全な製品であり事故は100%ではないが発生しないと自信をもって言えるくらいの対策を講じるべきではないでしょうか。


そこにはお金がかかると考えるのか、お金をかけない又は少ない方法は本当にあるのか、そのために何ができるのか。
そう考えて行動する良い時期ではないかと思います。


今は7年ぶりの高相場です。
秋までは相場は強く今年2021年は数年ぶりの高相場になることでしょう。


その中、売り上げた多額の収入を何に使うのか、鶏舎の増築、羽数の増加、新規農場の設置も良いですが、安全のための出費に少しだけでも投資しても良いのではないかと思います。


確率が低い自動車の任意保険にたくさんのドライバーが加入するのも万一のリスクを保険に頼ると言う意識があります。
ですが多くは掛け捨てで1年後掛け金は戻りません。

ギャンブルでは負けが確定した投資方法ですが、保険はギャンブルではないという認識が浸透しています。
お金を捨てているにも関わらずです。


つまり、安心のための投資です。万一は掛け金以上の保証金(払い戻し)を受けることができるのです。


ですが、確率は大変低い。
鶏卵の事故も同様です。


確率は低いが発生時の損害は大きい。


金銭と信用を失うものですから、安い保険料(投資額)であれば加入して安心を得たいと考えるべきではないでしょうか。

今年は例年と違い梅雨入りが早くなりました。
梅雨の期間は早い入ほど長くなると言えます。
高温多湿の環境と猛暑の心配。
鶏卵がさらされる温度が高いほど変質するリスクも上がります。


今年も皆さんの農場からそのような品質クレームが発生しないよう今から点検していくのも大事なことではないかと思います。