nogutikusan’s diary

畜産と共に歩む20有余年、今の養鶏の課題や考えをお伝えします。 のぐ地久三事務所養鶏部公式ブログ

アニマルウェルフェアと養鶏

JGAPの取得を目指す養鶏家の皆さんには大変関心があると思います「アニマルウェルフェア」今後定着するといわれるこの制度について考えます。


国際獣疫事務局(OIE)のアニマルウェルフェアに関する勧告の序論では、
「アニマルウェルフェアとは、動物が生活及び死亡する環境と関連する 動物の身体的及び心理的状態をいう。」と定義されています。


「5つの自由」は、アニマルウェルフェアの状況を把握する上で役立つ 指針とされています。

この「5つの自由」とは、

① 飢え、渇き及び栄養不良からの自由、

② 恐怖及び苦悩からの自由、

③ 物理的及び熱の不快からの自由、

④ 苦痛、傷害及び疾病からの自由、

⑤ 通常の行動様式を発現する自由
からの構成になっています。


5つの自由に基づき鶏が健康で自由な活動をし家畜本来の能力を発揮し人間にも貢献できるというもので、具体的には
①餌・水を適切に与えること、②家畜の取り扱いが乱暴でないこと、③暑熱や寒さの対策を講じること、④病気予防や適切に治療すること、⑤行動に制限を与えなこと、となります。


EPAが発効したEUはこれにより、ゲージに止まり木を設置し、砂浴びができ、暗い場所で産卵できるようなスペースを設ける等経済性より家畜の自由に主眼を置いてます。
このため、経済性を考える国からは、現実的でない・そこまでの自由を求めると生産活動ができないためその分のコストを消費者が負担するのか等疑問が出てしまいます。


現実、日本では経済性も考慮したアニマルウェルフェアを示しており、必ずしも設備を第一に考えることを求めていません。(蜜飼いは禁止です)
このことから、アニマルウェルフェアの考えに対応した採卵鶏(畜種全て)の飼養管理指針に関するチェックリストに従い適合するか確認してどこまで対策を講じているか
確認することが出来ます。


注意したいのは、EUの基準と異なるためEU向け輸出に適合しているかは別の問題です。


アメリカやアジア諸国への輸出には現在影響がないように感じますが、世界の流れが変わり始める可能性もあり、今のアニマルウェルフェアの考え方が主流になるかは不透明です。

では、現状を加味してこの考え方の取入れ状況を示します。


① 飢え、渇き及び栄養不良からの自由(餌や水を適切に与えることを指します)

養鶏に携る方には当たり前かもしれませんが、成鶏では水を切ることは生産性低下に直結することから実行する方はほとんどいないと言えます。
餌に関しては、栄養レベル高低は体重調整で良く実施されると思います。体重や卵重調整をさせる際一部の栄養分摂取を下げるため食下量を減らす行為をします。

よく見られるのは、経験不足や減量の適量を見誤ることによる生産性の低下や場合により骨軟化症を発症させるという作業ミスが原因で誘発することが良く見られます。このことから、育種の改良次第ですが、卵重や体重抑制のための取り組みをなくすことが必要であろと思います。


②恐怖及び苦悩からの自由

作業従事者に教育することが重要ですが、最近は外国人技能実習生に管理の基本を十分教えることが出来ていないと感じます。教える日本人(先輩)も適切な鶏の取り扱いが出来ていないようにも見えます。捕鶏の方法や大声で鶏舎内を歩き回る等「鶏」を中心とした考えが薄くなっており「伝承されていない」ところが多いので再度確認する必要があると思います。


③物理的及び熱の不快からの自由

多くの養鶏家が実行しているもので、暑熱対策は特に鶏の死亡にもつながることから対策を講じているのです。(寒冷対策も同じです)


④ 苦痛、傷害及び疾病からの自由

適切な治療をして、鶏に苦痛を与えないこと、ケガをしないよう配慮すること、病気予防のための鶏舎環境やワクチン対策を行うことを指しています。
現在の状況から見えるのは病気予防のワクチン対応は概ねどこの養鶏家もされていると思います。ゲージもよほどのメーカー製品でない限り突起物がある等はありえないのが現実でしょう。
ただ治療の場合は少し違うはずです。治療をする場合多くの理由として、鶏卵出荷に影響が出る場合があり、安易に実施できないことがあります。例えば近年見る機会が増えていますコクシジウム・クロストリジウム対策の場合多くは抗生剤を投与しなければ治療はできません。しかも状況が悪い場合鶏の死亡につながり生産性も落とします。
しかし薬剤投与は鶏卵へ移行するため廃棄処分が長く続く経営的なデメリットが生じます。ですので使用に躊躇する方が多く簡単に治療をするとは言えないのが現実でしょう。

このことから、衛生管理の向上に力を入れ、鶏舎内で増やさないようシステム鶏舎の改造や十分な水洗と消毒を行う等農家さんの意識が必要になるのではないでしょうか。


⑤ 通常の行動様式を発現する自由
日本のゲージは鶏が並んで食すれば良いという考えで省スペースで飼育する考えが根底にあります。ですので身動きは自由といえば自由でしょうが他の鶏をよけながら入れ替わりをしたり等制限があるのが現実です。
現在、日本版アニマルウェルフェアの考え方は立ち上がれないほど狭い等でなければよいという考えですので問題になる鶏舎は少ないのではないでしょうか。

しかし動物の自由に感心ある国ではこの考え方が通用するか疑問です。恐らくそれらの国とは取引はできないと言えるでしょう。(自国基準を満たさない場合、自国の養鶏を守れないと同時に世論が許さないと考えられます)


では、アニマルウェルフェアを受け入れる日本の養鶏家の方はどうするのでしょうか。


まず言えることは、経済性だけでは難しい可能性が高いということです。最も厳しいであろうEU基準である必要がないといえば「EU」向けの鶏卵を輸出しなければ問題ないと言えます。しかし、アメリカも経済主義の考えですがゲージ飼育の鶏に関して日本と同じ考えでないことに留意する必要があります。グアムへ350㎏の鶏卵が輸出しましたが、大きく伸びるかは今後の考え方次第です。


当分の間、アジア向けは問題ないでしょう。しかし時代と共に動物愛護の考え方が浸透してくる可能性もあり、自国の考えで商売することはとても心配です。


世の中は「数の世界」です。EU基準が良いという風潮であればそれに従うのが経済の考えです。我が道行くのも良いでしょうが世界相手の商売になるか「生で食べられるから絶対の品質があり日本の鶏卵が最高」というのは恐らく日本人だけです。

生で食べられる程の品質が高いのは日本の他EUアメリカも十分可能です。ただ生で食べる習慣がないだけで世の中生食が主流ではないのです。


ですから、日本版アニマルウェルフェアの考え方はここ10年20年は良いとしてもその後は恐らく違う道を模索しなければならないと思います。


今の考えをいくつか紹介しましょう。
「アニマルウェルフェアの考え方に対応した採卵鶏の飼養管理指針 チェックリストに関するアンケート調査結果 」
公益社団法人畜産技術協会発行した平成29年の資料からです。


(問1)けがや病気の鶏、病気の兆候が見られる鶏がいる場合は、可能な限り迅速に治療を行っていますか?
は い264件(93.28%)、いいえ11件(3.89%)、無回答8件(2.83%)と答えました。
皆さん「はい」が多いと感じるでしょう。しかし問題なのは安易に治療が出来ないのが現実なはずです。まがった解釈として「病気の兆候が見られるので強いワクチンを投与することを治療と解釈する」というのも現実あります。ある意味治療ですが前述の通り抗菌剤や抗生剤の使用までの治療をするのかという問いにした場合どれくらいの方が「はい」と答えるのでしょう。経済的損失を算出したとき決断できるのかということです。
十分に対応できない場合ポジティブリストに違反する等社会問題化することもあります。(県の買い上げ検査で検出される場合、市場に流通している物を買い上げて検査しているため回収と実名公表のペナルティーを科されます。)

 

さらに、鶏舎構造も経営コストを意識したウインドレス鶏舎が主流になっています。

 

(問2)ケージを使用している場合、上段の鶏の排せつ物が下段の鶏の上に落ちないような構造になっていますか?
は い264件(93.28%)、いいえ5件(1.77%)、無回答14件(4.95%)と答えます。
前述のコクシジウム等の問題の答えとも言えます。ニワトリの習性からすれば当たり前ですが、動く物や珍しいものに鶏は興味を示しますので、ついばむことは普通の事です。
狭いスペースに効率よくゲージを配置するとこのような問題が出てしまうのはやむをえません。ですので、はっきり「いいえ」と答えられず「無回答」を選ばれたのかなと推察される結果に見えます。

 

また、ビークトリミング(デビーク)についても質問しています。ビークトリミングは日齢が早いほど鶏への負担(嘴からの出血しにくい部分で切除できる等)が小さいことから7日齢近辺での作業が多いと言われます。最近は初生雛に対しレーザービークトリミングも主流になりつつありますので作業員が手で切る作業より費用は掛かりますが正確に作業が出来出血しない等鶏への負担が小さいと言われる技術も普及しています。

 

ビークトリミング(実施している場合はお答え下さい) (問3)ビークトリミングは、餌付け後 10 日以内の鶏に実施していますか
は い171件(60.42%)、いいえ12件(4.24%)、無回答100件(35.34%)と答えます。

ここで見えることは、ビークトリミングを実施する40%程度の養鶏家は育雛期には作業していないことが分かります。先ほどの通り、早い期間で実施することが鶏への負担が小さいことを説明しました。正確な作業が出来ないと小さい雛であっても出血による死亡や成長不良による淘汰鶏の増加に直結します。ですのであえてこの期間を避ける養鶏家もいます。育成期での作業を実施することがあるのでしょう。(捕鶏しやすい等のメリット)
鶏を考えれば早いほうが良いというのは、育種メーカーのマニュアルにもあります。しかし作業性を考えると実施できない。ですので鶏を基準に考えて遅くなって作業するのであれば費用は掛かるでしょうがレーザービークトリミングを実施することを検討できれば考え方も変わるのではないでしょうか。

 

まとめとして、アニマルウェルフェアを考えるには


①動物の自由を尊重するためには経済性だけで解決できるか再考しなければなりません。(日本国内であれば消費者からの理解があれば問題ないと言えます)


②外国向けの販売を予定されている方は、日本版アニマルウェルフェアの考え方が国により理解が得られない可能性があることに留意します。(動物愛護の考えが強い国からは理解が得られない可能性が高い)


③いずれアニマルウェルフェアを導入することは避けて通れません。ですので先ほどの質問のようにできるところから改善を始めていくとこの流れに遅れず乗ることが出来ると思います。(動かなければ何も変わらないということです)
(OIE(国際獣疫事務局)が公表した「巣箱」や「止まり木」が必須となる採卵鶏 のAW条項の修正 2 次案ではなく、日本の気候風土や生産システムを踏まえたいわば日本型アニマルウェルフェアの策定を求めて、昨年 12 月 20 日に農林水産省に 要望書を提出して審議してもらうわけですがこの陳情が強く影響を与えるものでないことに留意します)

 

時代の変化が大きく動く平成最後の年、皆さんの考え一つで養鶏の未来が大きく変わり次の時代へと流れていくのでしょう。明るい養鶏時代であるよう頑張ってまいりましょう。