nogutikusan’s diary

畜産と共に歩む20有余年、今の養鶏の課題や考えをお伝えします。 のぐ地久三事務所養鶏部公式ブログ

経営難による法令違反事例 家畜や鶏糞の放置

20年1月和歌山県の養鶏場(肉鶏)が事業破綻しました。

業績不振による資金ショートと見られます。


昨年は食鳥相場は大変軟調な時期でした。通年を通じて安い状況が続いていたこともあり体力が弱い状況にあった場合は破綻という流れもありえます。


昨年は、採卵鶏同様鶏に携る方々は大変ご苦労されたことと存じます。

 

今回破綻報道から、2カ月後の3月には家畜の死骸や鶏糞を放置していた問題が発覚し問題になっています。
報道では、死骸5万羽(一部は10万羽とも報道されます)と鶏糞の放置が明らかになり異臭や鶏糞等が原因とみられる火災が発生していると、日高町議会3月定例会で取り上げられています。


鶏舎内に死骸と鶏糞が残存している状況で外への流出はないとされているようですが、その養鶏場は事業が継続しているとされ、勝手な消毒作業等衛生対策が講じられないと報道されています。

事業継続というのも驚きますが、継続できているのか疑問です。


飼養衛生管理基準では、排せつ物の外への流出を規制しています。
野生動物による食害等から病気の拡散を意識するからです。


しかし鶏への病気の拡散はありえます。

死骸が原因となる鶏病もありますし何より衛生管理上問題です。


通常多くの養鶏場は、衛生管理のレベルに差はあるとはいえあまりにも不適切な農場は見ることはありません。


ごく一部は家畜の処理に畜糞をかぶせて発酵熱で処分するような方もあるようですが、家畜への対策は差はあるものの不適切ではないのがほとんどです。

 

ですから、勝手に消毒できないというのもその通りですが、冷静になると経営者は積極的に行うべき問題とも言えます。


仮に生産活動されていてもこれだけ大きく問題化した場合その畜産物を購入したいバイヤーはほとんどないかもしれません。

 

破綻へ進んでいく農場では、なるべく不要な物に資金を投じたいと考えることはありません。
不要な物とは、今いらないもの、事業から見て不要な物等あると思いますが、多くは必要なのに順位から見て後回しになるものです。


明日期限の手形をどうすのか、明日精算する修繕代や飼料代金、経営者の自宅分割代金もあるかもしれません。
多くはその時点で従業員への給与遅配、工事等清算代金の延期、光熱費の未払い等経営にすぐに直結しないものから、不要な物に資金を投じないという姿勢になります。
当然金融機関との調整が不調に終わり万策尽きるもなお金策に回るという状況で、鶏糞の搬出にかかる費用や死骸の処分費など利益をえないものは後回しになることは容易に想像できます。

 

今回県は廃棄物の処理及び清掃に関する法律に基づき死骸等を処分します。
この法令は伝染病の広がりを防ぐための法令が元になり、ごみの処分やその過程の管理等産廃に関する規定のイメージがありますが、生活環境を清潔にし、公衆衛生の向上という目的があることから執行されるのでしょう。

農場での野焼き禁止もこの法令に含まれます。ですから死骸を焼き捨てることもできません。

 

鶏糞は肥料になると報道されましたが、すべてが処分できるかは未知数でしょう。
近隣の農場等生産量によっては競争になるからです。
場合により自社田畑への散布(還元)となることもありえましょう。

 

畜産物を扱う私たちは、通常の生産活動では何でもない法令に見えますが、いざ何か問題が生じた際には大きな壁になる法令です。
そのため、思い出すのは畜糞の処分を放置して破綻するという問題です。


先の通り、肥料として搬出できるのですが、そのための費用がないため放置するというものです。
実際、糞の搬出に最終的に費用をかけて産廃として排出することもあるため、その費用が捻出できないまで体力がない場合は、そう遠くなく業界から退出する一つの予兆にも見えます。


死骸は、石鹸や肥料になったりと化学工場が無償で引き取るところもありますが、運搬料は農場が負担することも多いはずです。
工場側は本当に欲しいという産物でないため当然ですが、多くは10トンを超える大型車に積載して搬出します。
相当の台数が必要になり(飼育の数によりますが何万羽単位となる場合は1台2台では収まりません)その運搬賃も高額になることもしばしばです。
ですから、家畜や畜糞の処分に行き詰る場合の多くは、破綻もありうるのです。

 

破綻又は資金力が低下した養鶏業で見られる鶏糞の放置が共通しているということです。
鶏糞は肥料になるため副産物として排出することが出来ます。しかし鶏が排せつしたすぐに田畑に散布することはあまりないはずです。
それは、加熱やその過程で発生するガスによる影響があるためです。


ガスが発生した状況で田畑に還元し作付けを行うと多くは苗が枯死することが多いのです。特に発酵が促進される冬以外は外温が高いことで自然発酵が進むためです。
ですから、すぐに価値ある副産物になることはあまりないのです。

また発酵させた自社鶏糞でもあり得ますので、「後に植え付けたキャベツが枯れたぞ」と苦情を受けることもあります。
それだけ、鶏糞は熱エネルギー(カロリーが高い)が高いので管理が大事なのです。


鶏糞の放置が問題になるケースでは、野積みや外による放置が多く地下水の汚染防止からこの場合すぐに指導されます。
しかし、畜舎に保管(放置)である場合、地下水汚染や外への漏出がない場合すぐには大きな問題になりにくいと言われます。

今回、破綻から見えた不法投棄(自社敷地内で施設内のため)ではないものの、不適切な管理による問題は畜産農場が淘汰されるたび問題化する可能性があります。


近年は、大規模化した農場が増えているからです。規模が大きいほど家畜も多く畜産物も多い。
ですから収益も大きい。
良い時のサイクルですが、サイクルが負になった場合は大変です。
規模が大きいほど家畜も多い。経費が大きく、収益が圧迫され、費用捻出に困窮する。

事業継続には、知恵と安定出荷先があることが大事です。
今後の情勢によっては変化を求められることもありましょう。
その柔軟さを失ったとき、市場での自社の価値が問われ退出もあり得るかもしれません。
考えさせられる事件です。