nogutikusan’s diary

畜産と共に歩む20有余年、今の養鶏の課題や考えをお伝えします。 のぐ地久三事務所養鶏部公式ブログ

鳥インフルエンザの被害とため池の影響 発生数が過去最高で周辺にも影響も

鳥インフルエンザの話題がだいぶ聞く機会がなくなりました。 本年度(令和4年度)の被害は4月7日の北海道の発生が最後になり、現在殺処分も14日に完了しており清浄性確認検査結果を待つ状況です。 この先も被害なく推移すれば5月中旬には制限区域も解除されやっと長く厳しい時期を終えることになるのではないでしょうか。 14日時点26道県1771万羽が殺処分されています。また過去発生がない6県(福島、群馬、鳥取、山形、沖縄、長崎)でも新規発生が確認されており、例年話題になりやすい地域以外でも被害が発生するという深刻な状況でもあります。 また、鳥インフルエンザによる話題として、鶏卵価格が高騰して消費者や加工向け、外食・中食向けに供給が遅延するという話題もあり、今もエッグショック等話題も聞きます。 その中でも昨年被害にあった農場では再開しているところもあり、少しづつ生産回復が始まっているようで夏ごろには順次回復が進んでいくでしょう。 ただ、餌付けはローテーションを意識した導入になるでしょうから、すぐに3ロット、7ロットと同時には入れないはずです。ヒナの不足は聞きませんが、それはローテ通り入れていくことで、不足が生じないと言えます。 いくつかの孵化場にはヒナの入手が可能かどうかの問い合わせはあるようですが、購入に至るまでの深刻な不足は生じていないように感じます。 ただ、急激に増羽するという農場はないため不足解消はこの先緩やかに進んでいくことになり、被害前の水準に戻るまではこの先1年か1.5年先まで時間がかかるように感じます。 さて、鳥インフルエンザによる被害の爪痕は様々なところで話題となり、深刻なダメージを受けた農場もありましたし、地域もありました。 100万羽単位の農場が殺処分され、再開までご苦労されている話もあります。 また、殺処分数が大変多いため、県職員への負担が重くなっているという話もあります。 本年は地域によって、発生農場周辺で続けての発生もあり、県職員の方々を中心に複数農場を続けて防疫措置を継続している地域もありました。 その他にも、鳥インフルエンザで防疫措置を終えてまもなく、豚熱による防疫措置を行う職員の方々もいて地域により法令で速やかに措置を講じることの難しさが課題になるようなところもあります。 速やかな処分はその通りなのですが、その任に当たる職員の方々は続けて行うという現実を想定していないという感じもあり、感染拡大を防ぐ観点とそのための職員を動員することまで今後検討することになるでしょう。 その中、分割管理という手法についても検討されており、青森や千葉県の養鶏場では試験運用を開始していくことになり、この結果次第で農林水産省は処分の在り方を検討することになり、今とは違う被害発生時の姿があるのかもしれません。 今回殺処分による地域への影響として埋却後の流出が話題になりました。 鳥インフルエンザ発生により殺処分された家きんは一般的に埋却されることが多いことは皆さんご存じのとおりです。 確かに焼却することもできますが、鶏の脂肪が焼却時炉の中で流れ出て、いつまでも燃え続けるような形になることから、結果的に焼却炉を傷める形になり焼却数を制限することが多く短期間で多くの鶏を焼却することは困難と言えます。 このため自治体は複数の焼却施設と緊急時の取り交わしをしていると思いますが、いずれにしても1施設で1万羽とかまとまった数は焼却できません。 速やかに処分するため、焼却炉の全室(ゴミ溜め場)に貯留することもできないはずですから、すぐに炉に入れることになり収集ごみと合わせて速やかに燃やすことになります。 多くの地域は市町村税で焼却施設稼働費を賄います。このため地元では有償無償問わず受け入れはしてくれることは多いと思いますが、よそ地域の焼却設備費は支払っていませんから、ほかの市町村へ鶏を処分依頼すると産廃扱いとして1羽又は1キロ単位で処分費用を支払うのが一般的です。 また産業廃棄物ですから地元市町営焼却施設であっても規定に従い有償で行うというところもあり、やはりコストは大きくなります。 埋却は、埋却地を農場が用意することを法令(飼養衛生管理基準)は定めています。 ただ、埋却に適した地でなければならないという規定はなく、多くは格安な土地を買い付けたり、農場建設のために購入したものの適地でないため放棄している地を選定しているところもあるでしょう。 それでも用意できない場合は、地域によりますが焼却するという形で準備をしているところもあるでしょう。 ご存じの通り、焼却にしても埋却も農場がそのコストを支払うことはありません。殺処分からその最終処分まで国が全額支払いその処分を県に命じます。県は処分を担当しその費用は地方交付税を原資に支払いを行います。 地方交付税は県の活動全般のために活用される補助金ですから、鳥インフルエンザのために何十億円と支払われるものではありません。 ですから県によっては、いくらかの予算は付けておくでしょうが、大規模農場から多く発生し処分までに時間と労力と人件費等コストがかかるという地域もあるところは予算がひっ迫するということもあるでしょう。 それが理由ではないでしょうが、茨城県鳥インフルエンザ予防及びまん延防止に関する条例を整備し50万羽以上飼養する農場を想定し4月1日から施行する(一部は10月1日から)ことになりました。 それによれば、防疫措置を円滑に進めるために鶏舎設備を県が設定(広さ・通路幅等)しており新築する時、建て替えする際に規制を受けることになります。 図面の提出もあり、万が一の際には鶏舎構造や処分の円滑な方法を構築し、県の活動に支障なく進めることができるような制度にしています。 また農場にある人員や機材を防疫措置対応計画に記載させることになっています。 農場から、斃死が多い等通報を受けて、簡易検査で陽性が疑われる場合県は速やかに埋却等の準備に入ります。 県や関係団体からの人員補充を手配し、農場と詰所までの人員輸送手配、重機移送とオペレータへの依頼と埋却地の選定と試掘と埋却堀の作成をします。 多くは取り交わしがあるはずですから、団体や専門業者へ片端から電話して手配可能か問い合わせるということはなく、一報あると手配まで完了し行動に移るはずです。 確定検査(遺伝子検査)により疑似患畜と判定されると、速やかに殺処分のための行動と埋却先までの輸送と、埋却作業と分担し進んでいきます。 こうなると、農場従事者や経営者は汚染防止の観点から作業することはできません。ですから手慣れている農場従事者をその作業に入れるといいはずと言います。 ですが、汚染を広げない観点から出入り自由(作業途中で昼食を買いにコンビニへ等自由行動)では困ります。 防疫措置を行う方がと同じように広げない措置まで同じようにできるのかという視点がなければ、ただ処分を短時間で済ませて再稼働を早めたいと聞こえる感じもします。 一段落したあとの話題として、近年は埋却後異臭騒ぎやため池の汚染といった日常生活への影響が見られます。 昨年12月九州のある農場で鳥インフルエンザが発生し埋却先には農場が用意した敷地に鶏やそのほか汚染物を埋却しました。 そのあと時間を置かずに、異臭が発生しハエが沸きだし、近くのため池が白色化するという騒ぎになりました。 1月に県は周辺住民へ現状を説明し、埋却のやり直しを伝えます。それから月日は流れ4月20日住民代表への説明会を行いましたが、稲作農家がいまだ田植えができないことや、再埋却完了は7月までずれ込むという見通しを示したことで、住民との話し合いは紛糾しました。 ため池の白濁化も20日時点でも白いままで異臭を感じる状態が続いているようです。 県によれば今度の敷地は竹藪の地で21日から竹の伐採を開始し7月上旬をめどにしているとのことで、漏出防止から遮水シートを敷き消臭剤をまき入れることにしています。 ため池は定期的な水抜きと水質検査を行い、汚染した川では川底を洗浄し継続することになっています。 なお、稲作農家が求めていた水質変化による補償は農業用水基準では水質には問題ないということもあり、実行しないことで話し合いは平行に終わります。 農場が用意した埋却地が適切な処分地であれば再埋却は必要がない工程でもあります。 ですが、適正なのか良い判断ができなかったのか、良くないとわかっていてももう掘り出しており、他処分地を選定している時間がないといった後戻りできない流れでは、失敗がわかっていても進んでいくしかないという明らかな失敗につながりそう感じながら作業をしていくことになります。 ではどうするべきなのか。 作業は急いで防疫措置を進めていく前提で工程が作られています。 急いで殺処分し、フレコンに詰め込み、輸送し埋却する。 それぞれの工程に問題がないことが前提ですが、今回のように埋却部門に問題が生じると、全ての工程を止めることになります。止めるということは各工程の職員の手も止まり機能が不全になるとも言えます。 ですから、事前に適正なのかを知っておく必要があるのです。事前とは確定検査がわかる数時間までの間ということではありません。 事前に敷地を見て確認しておくのです。認証を与えておくという手段もあるでしょう。 急ぐ必要がある作業だからこそ、失敗は大きな事故に発展するのです。今回は再埋却となることになりその時期までが当初より3か月から遅延したということです。 それによる周辺住民への影響が大きくなってしまうのです。 養鶏は周辺との分かり合いが大切な産業です。臭いから、音がうるさいからでは近隣との関係は悪くしてしまいます。 今回は殺処分による昼夜の騒音からその死骸等を埋却し、その後の異臭と白濁と周辺への関係を大きく損ねる結果となりました。 田植えが遅れ稲作農家の方にとっては風評被害を心配するという声もあります。 大きな影響が被害発生から5か月経過してもまだ解決できていないという今後の課題になる事例になるでしょう。 そしてそのような地を用意しないよう、養鶏家は埋却地であることを理解し、必要面積を満たす土地を用意しておけばよいということではないことを知るきっかけになったのではないでしょうか。 確かに日常は活用しない土地です。おそらく多くの農場では生涯使用する機会はないかもしれません。 であれば、通常は田畑として貸して、緊急時は作物を補償するので優先して埋却するという発想も必要になりますし、近隣の大口農家さんとそのような協定をしてもよいでしょう。 土地は有限ですから、自前の土地か農家さんの土地を借りるという手段も検討して良いのではないでしょうか。 最近は農地をソーラー発電所へ転用するという地もあります。有効活用かもしれませんがその地を農場が借りて第三者農家へ転貸して緊急時は活用するという手段もあるかもしれません。 行政を含めて検討しても良いのではないでしょうか。 今回の鳥インフルエンザの影響は発生後の話になります。でも本当はそうならない農場運営を検討することもあるのではないかと感じます。 出来ることは一生懸命行ったという方も多かったでしょう。でも何か隙を突かれたのかもしれません。 その隙は何か皆さんも考えてみませんか。発生する農場と発生しなかった農場の違いは何か。 それは些細な違いだけで、あとほんの少し何かを手にすれば防ぐのかもしれません。 大変な被害があった令和4年の大流行。まだ油断はできませんがもう終焉を迎えているはずです。 であれば今年令和5年は何をしていくのでしょうか。土地の話かもしれませんが、何かを感じていただければと思います。 殺処分に対応された多くの方々には本当に感謝を申し上げ、そして命を失うことになった多くの鶏達には養鶏家一丸となり同じような被害を出さないように努力を続けていくことをお約束し先の世でゆっくりと過ごしてほしいと思います。