nogutikusan’s diary

畜産と共に歩む20有余年、今の養鶏の課題や考えをお伝えします。 のぐ地久三事務所養鶏部公式ブログ

人の雇用とは 何が目的で会社にとって有益なことですか

最近話に聞く人材確保には派遣人材が一番いいという話題ですが、弊所から見ると少し危険なことではないかと危惧しています。 その要因を見ると、日本人求人を行うと多くは採用はできますが、1年や2年在籍すれば良いがそうもいかないという現実もあるようで、在籍しているものの仕事覚えが・・、仕事の能力が・・ 遅刻、早退、休憩時間の概念が少し異なる等何かが違うということもあるかもしれません。 一昔の派遣さんと言えば、労働契約が調整しやすい、依頼すると間違いなく人が来るという確実性が売りでもありました。 しかしこのところの派遣さんと言えば、労働時間は調整しやすい、依頼すると確かに人は来るということ以外に、畜産業を知らないため軽作業と紹介されて来るようですが、鶏舎が熱い、埃が多い、臭い、その割に労働する方の賃金配分が少ないと言ったこともあるのでしょうか、人は来るが、同じ人が長く来るとは言っていないといいましょうか、今週いっぱいでその方は終わりになり、次週は違う人という事例も散見され、いつまでたっても同じ作業ですら教え続けなければならないという従事者側の負担がいつまでも解消されないという本末転倒な農場も見るようになりました。つまり畜産業にとって作業の有益性から見ると少し難があるということです。 求人状況を見ますと、軽作業の鶏舎清掃・集卵・鶏糞の掃除といった紹介でその農場へ派遣させる会社さんが多いように見えます。この利便性もあるのでしょうか、畜産業の人材不足感は昨年、一昨年と比べ少ない又は充足しているという指標が多いと弊所では見ており、人の数としては十分になっていると考えております。 そして、慢性的にこのような業務を行ってくれる作業員を募集続けているという派遣元も散見され、人の数をどれくらい確保できるのかという目線しかないように見えます。 当然数合わせですから、先ほどのような軽作業なのにキツイ・汚い・危険といった3K職場へ派遣されてやる気を削られてしまい今週でお終いという流れになることもあるように見え、まさに負のスパイラルに入ってしまった農場と派遣元というように見えます。 農場は、今週で○○君は終わりで、来週からは△△君が来るそうだ、よろしく面倒を見てくれという伝達だけが届き、現場は来週も新人教育を継続していくという繰り返しに至ります。 昨年から聞こえる、現場の疲弊感を何とかしたいという相談の1つに雇用が変化したことによる疲弊があります。 この原因は何だろうかと考えると、問題は2つあると感じます。 1つは、人の雇用を諦めた原因を究明できていないという農場側の姿勢、2つはそのために人材派遣であれば確保はできるという頭数だけを意識したことによるミスマッチと言えます。 まず1つ目であるなぜ人はこの農場に来ないのでしょうか。または来たとしてもなぜ長く務めることができないのだろうかという視点です。 その要因は後述しますが、人のとり方が頭数を揃えることしかないという視野の欠如が原因です。 「いや、覚えが悪いからでしょう」という意見も聞きます。あるいは「難がありそうだけど、その人しか応募がなかったからとりあえず採用したから、結果そうなっただけなのだよ」という話もあるかもしれません。 近年新卒を採用して、幹部として育て上げるという農場経営者も増えてはいます。ですが、多くは中途採用を前提にした採用に比重を置いているはずです。 その理由には新卒はまず応募はない又は限りなく少ないという現実があり、人材育成と言っているほど余裕がないという現実です。 確かに規模が大きい、福利厚生がしっかりしている等企業としての知名度があり、農場規模も大きいところではそれなりの企業価値があり、新卒サイトに登録すればいくつかの応募があり採用も可能でしょう。 ですが、そうでない規模であれば、新卒サイトに登録しても新卒側がその企業に目を留めることはまずありません。それは、その企業より知名度、規模、賃金すべてが上である企業にまずは応募するはずです。何もなく仕方がないとなれば別でしょうが現実の就職市場は買い手側(学生側)が有利になのは皆さん知っているはずです。 そして、春先に内々定を出すという企業をよそに、夏になっても秋になっても募集を続けていかなければ、人が応募すらないという現実があります。 良い人材程、大卒であれば4年次早々には内々定をもらい多くは就職活動を終えます。つまり良い人材は早い段階で就職市場から撤収していきますから、少しづつ良い人材は欲しいが現実は少しづつ乖離していくという厳しい現実を見るようになります。 秋口以降やっと応募があり面接をして採用に至るということもあるでしょう。でも少し考えてみれば、4年次の春先以降順次内々定をもらっている学生が多いのに、なぜ内定がないのか、内定を1つでも多く勝ち得たいという人ほどその農場を本命にして選考しているのかということです。 でもその学生に欠点はありません。大事なのは採用する側が、その人をどのように育てたいのかという視野があるのかどうかということだけです。 秋以降の採用に得なしと言う人もいますが、それはありません。 大事な視点が抜けているだけです。 それは「採用してその人をどのように育て企業に利益をもたらすのか」という視点です。 中小以下の農場で多くみられるのは、昭和時代の潤沢な人材がうようよしていて、人はいくらでも来る・ダメなら他があるという人余りの時代の背景しか知らないという残念な視点です。 繰り返しますが、人は優秀であれば相応の業種に就職し、常に人生博打をしているわけではありません。何でも不満で転職をするという風潮があるとされますが、多くはそんなことはありません。 俺は有名企業に就職したが、組織が不満で養鶏業に転職するということはないのです。 ですから、採用を続けていればそのうち、良い人材に巡り合えると信じて、何人も何人も面接をして採用し、仕事は現場に任せているだけでは、実際は何も変わらないというのが実情になります。 人を頭数合わせて採用しているのであれば、仕事はそれなりでも構わないというのが採用基準になるはずです。そんなものに条件を付ければ人が来ないのはわかりきっているからです。 それより、採用して運が良ければ覚えてそれなりの戦力になることを確率10分の1,100分の1に期待した採用になっていて、それが定着率が悪くなることに気づけていないのです。 人の定着は宝くじの末等当選の確立より低いということではありません。これは新卒・中途同じことです。人をどのように育てるのか、ただの数合わせなのかという基準でとっているかどうかだけです。 人は目的があって採用するはずです。でも最近はまず頭数を揃える、その先はその先考えれば良いという安易さが、企業価値を更になくしていき、慢性募集の企業と認識されてしまいます。 でも慢性なのかどうかは、農場側はわかりません。必要だから募集しているから期間は定めていないからでしょう。でも求人側は中途であれば、あれ?この企業先週に続き今週も折り込みチラシに求人入れている、掲載料無料の求人サイトに公開して、公開して90日以上たっても掲載を続けている等違和感を感じるかもしれません。 では2つ目、そのために人材派遣であれば確保はできるという頭数だけを意識したことによる弊害についてお話しします。 先ほどのように自社で人確保ができないとなれば、技能実習生や人材派遣業から人を補充することになります。 技能実習生は確実に来てくれる人材ではありますが、日本語の壁もあり最初は軽作業のうち、基礎的部分しか作業に担えないという声も聞きます。 つまり、将来幹部候補としての人材育成ではなくこの先3年、5年程度までの労働人材として採用するということです。 人が入れ替わり、その都度教えることになり、やはり農場現場の負担は大きいものになります。 そして、人材派遣からの労働者であれば日本語もわかり労働も可能でしょうが、畜産業専門ではないということが多く、程度によりますが技能実習生が車の運転ができる程度までの業務しかできません。 そうなると、現場の疲弊度はさらに上がります。 例えば、畜糞を耕種農家さんに販売する際田畑にスプレッター車を使用し散布しますが、現場がわからない、特殊車両でもあり操作方法が覚えられない、車両がマニュアル車で免許条件を満たしていない等畜産業特有の業務を行うほどの人材はあまりいないように見えます。 そうなると、現場社員が乗り業務をし不在になります。確かに農場作業の基礎部分は作業はできます。でも機材トラブル・鶏の正常異常の判断、生産減少への対応はできません。それは誰が行うのかと考えれると、やはり現場社員になります。 田畑散布が終わり残業させても修理すればよいと考える経営者や経営幹部が多いのですが、その人の作業キャパはその職務層より高くなり、ただでさえ賃金格差があるのに、とりえのない幹部より仕事量だけが多いという不満に至ることが多くなります。 残念ながら、人は潤沢にあると考え続けている経営者、仕事が増えると困る幹部から見ると、その不満をわかることはありませんし、それが悪いと考える機会もありません。 だから、仕事をこなし、責任感ある人は低賃金だからこそ転職していくのです。畜産業以外の業種も低賃金ということはないのです。だから労働移動がしやすいのです。 でも人はいくらでもいる、そう考えてしまうといつまでも何も変わらず作業ができる人材だけが抜けていき衰退していくだけです。 だから安泰は衰退であるということなのです。 安泰は穏やかで、心配がないことを言います。昨年の高相場で心配もないという農場も多いでしょう。 でも何も考えず、何も変わらず、何もしないでは、衰退していきます。 鶏の品種改良が進み、高産卵が可能になり、設備も最新になる。 でも農場の管理は何も変わらない、何もしないでは、変化に対応できる人材もいなくなります。 時代は変わり続けています。それは養鶏も同じです。 だから衰退した養鶏場は低卵価に至ると、コスト削減だけ一心不乱に行い、生産減、人の減少、それが売り上げ減、販路の変更等更に悪化し破綻ということもあります。 一昨年より前にいくつかの養鶏場が経営破綻しました。 多くは、飼料コストが高く負債返済の見込みが立ちにくく破綻を選択しています。 でも良く見ると、飼料コストが高いから全ての養鶏場が破綻したわけではありません。 経営のかじ取りが悪いだけであり、業界全体が破綻したと言うことではないのです。 ここが生産維持できた、販路を死守した、コストを無理なく抑えたという人が関わっていたことまで良い見とれる人も多くはないでしょう。 そうです、人が見えない中でも動いていた農場ほどこのような時代が訪れても養鶏不況を乗り越えたのです。 この視点を持って経営をしているのかということをもう一度考えてみると、採用は頭数合わせだけでいいのか、人は育てるものではなく数なのか。 答えや視野が変わるきっかけになるはずです。 でも教えるほどの力をもはや持たない農場もあります。だからこそ教える・知る人から教わるのです。 本年の相場はどうでしょうか。低価格だから融資を受けてしのぐという選択もあるでしょう。 でもしのぐだけでは、数年低卵価相場が訪れると、やがて力尽きます。その事例が一昨年からその前の破綻劇にあるのです。 今年は、餌の上昇から始まり、電力料金も一部大手は僅かですが値上げを発表しています。 1円でも削減したい、そう考える1月になるかもしれません。 その時、何を削るのでしょうか。 何も考えず餌でしょうか、何も考えず電気代・ガソリン代でしょうか。 その削りは安全な削り方でしょうか。 その適否は誰が判断できるのでしょうか。 最終的に損を被るのは誰でしょうか。 それは鶏でしょうか、従業員でしょうか、餌会社でしょうか、それとも経営者でしょうか。 それはわかりません。でもわかることは人の考えが本当に大事であり経営に大きく左右されるということです。 さあ2024年が始まります。我慢の月ではなく、我慢の年となるのかどうか、その時融資だけでしのげるのか。 考え始める1月であっても良いのかもしれません。