nogutikusan’s diary

畜産と共に歩む20有余年、今の養鶏の課題や考えをお伝えします。 のぐ地久三事務所養鶏部公式ブログ

鶏卵サルモネラ検出に思うこと

鶏卵とサルモネラは、イコールで連想される方も多いと思います。
養鶏に携る方には、「うちは関係ないよ」という方もいます。
近年はサルモネラワクチンを接種することで、発生は絶対ないという安心があることも
要因かもしれません。


ワクチン効果として、鶏の腸管におけるサルモネラ・エンテリティディス(いわゆるS.E)定着の軽減があるとされます。
ですが予防効果の一助になるもので完全阻止するものではありません。


何だ、ワクチンの話か?と言われてしまいそうですが、今日はそうでなく鶏卵の置かれた立場を近年の報道から読み取ってみようと思います。


まず、鶏舎内でのサルモネラ採材(ふき取り検査)の陽性率を見てみます。
平成17年ですので少し古いのですが、ねずみの検体からは18検体のうち5検体が陽性(発生率27.7%)で高く表れます。
養鶏場での最大目標「ねずみの徹底駆除」はここに理由があるのでしょう。


次いで、害虫が13検体のうち2検体陽性で(発生率15.3%)高く、衛生害虫は近隣に迷惑をかけるだけでなく媒介しているリスクがあることから、徹底除去する必要があり、日常管理作業の一環で行われていて理にかなっています。


3番目に多い鶏舎床面で、1823検体のうち184検体陽性(発生率10%)と、ネズミに関連している可能性が高いことをうかがわせています。


その他、死亡鶏で発生率9.9%、鶏卵搬送バーコンベアで3.3%、鶏糞1.9%、鶏舎壁5.1%、鶏舎ホコリ2.4%、卵選別機械2.5%と養鶏場での基本的箇所はこのように示しています。


それ以外に注目したいのは、管理器材が6.4%と高いことが気になります。


製品である鶏卵からは検出がなかったことにも注目したいところです。

 

さて、データから見ますと鶏卵(卵殻からも検出なし)から陽性がないこと、ねずみに高い陽性があったこと、ねずみに関する場所(床面やバーコンベア、それを触る機会が多い管理器材等)が高い傾向があること。後に結論を示しますがサルモネラの対策はどこに力を置くのでしょうか。


もう少し、データを見てみます。
S.Eの食中毒は少なくなっています。しかし疫学的に、分離される原因は鶏卵と考えられており養鶏場が調査の対象になる傾向が非常に高いのです。


食品媒介有害微生物リスク管理セミナー平成19年の講演では、全国の約1/10の養鶏場での調査で、1995年当時は8.5%のS.E汚染率で、
2001年は3.5%の汚染率となり、平成19年ではわずかな低下程度と言われていると紹介されています。


鶏卵の流通経路を先ほどのセミナー資料から見ますと、

問題としない経路として
1、農場からGPセンターを通り量販店へ行く場合は、量販店の規格書等があれば順守されるため問題なしといわれます。
2、農場からGPセンターを通りパック工場を経て量販店も同じ。
心配な問題と考えられる経路なのは、
3、農場からGPセンターを通りパック卵・箱卵が卵問屋に行く場合は心配です。

卵問屋での詰め替えが行われ、保存期間の一定がなく、飲食店等業務用となり、詰め替えのため自社農場の卵かわからないことから調査が難しく、事故発生時の追跡は困難であるといわれます。


鶏卵の殻に付着したサルモネラ菌は殻の小さい穴から内部に侵入し増殖を開始します。しかし、すぐには増殖せず冷蔵であれば40日は増殖を抑えるため、冷蔵庫保管を基本とします。常温であっても例えば28℃であっても6日程度は増殖しないとされます。

ですので、鶏卵が汚染し増殖するまでは常温だからすぐになり事故に至るというわけではないのでしょう。

しかし、詰め替え卵の保管はまちまちで9日は安心かもしれないがうちの卵は2日程度、でも他所はすでに7日は経過しているということもあり得ます。

 

ではデータから見た鶏卵の置かれた立場を考えて見ますと、鶏卵から算出されるS.Eはほとんどなく、逆にねずみによる汚染により結果、製品に付着し事故に発展するという考えが出来ます。


たしかに鶏卵の殻に、もし付着しているとすれば集卵ベルトをねずみが通行し汚染するという考えも可能でしょう。
床面の汚染も、ねずみの通行による汚染で人が通行した際に交差汚染するという考えも成り立ちます。
鶏卵搬送バーコンベアもねずみが通行することがあり汚染も成立します。

ですから、鶏に対してワクチンを接種した場合、
鶏から産出される製品に汚染がなくとも、その後の保管状況等で汚染する可能性があるという考えは頷けます。


しかし、養鶏場で発生したという報道をされた場合、その発生源は鶏卵と言われるため、細部を検討すると実は鶏卵でしょうが、その根本は別なのですという論理もあるはずです。しかしそのような報道はされません。


ですから、サルモネラワクチン接種したから安全ですとは言い切れないのです。それ以外にも殺鼠対策をする。そして定期的に検査し、どの採材で異常を検知したのか確認し消毒し、ねずみの生息等確認する必要があります。

鶏舎を綺麗に管理することは衛生管理対策上有用ですし、それだけ害虫や衛生動物に対する意識も高いので、安全性が高いと言えるのです。ワクチンだけがS.Eに対し絶対的に有効ではないことを再確認したいと思います。

 

最後に最近のサルモネラ中毒の報道についてまとめてみます。
2017年11月2日山形県鶴岡市の養鶏場で産直販売した鶏卵からサルモネラ属菌が検出され、自主回収したと発表しています。


2017年9月21日山形県鶴岡市の病院からサルモネラ検出患者の増加があり1名が死亡したと通報があります。検体からサルモネラ属菌09群が検出されたと発表。
原因は鶏卵か、食肉か、外食か、はっきりと特定できず庄内地域での鶏卵流通状況を調査。
鶏卵の流通は、G.Pセンターより自社養鶏場の鶏卵のみ選別・包装している場合の他、他社養鶏場から仕入れた鶏卵も選別・包装していることが分かった。
結果養鶏場までさかのぼることが出来ない場合があった。


家畜衛生所による庄内地域18養鶏場のサルモネラ汚染状況調査を平成29年10月実施したものによると、2か所の養鶏場の環境検体等からS.Eを検出。

当該鶏舎の鶏群を廃用処分し清浄化対策を実施。

 

今回報道のあった該当養鶏場の付設G.Pセンターからは検出はなかった。
鶏卵も検出はなかった。
今回の検体解析の結果2農場から検出したS.Eは患者の菌株と遺伝的に同一と考えられた。
しかし、患者1名はその養鶏場の鶏卵と鶏卵加工品を喫食していない事実が判明している。

 

9月の報道から想像できるのは、前述の心配な問題と考えられる経路3に該当しています。
ですので、検出した養鶏場の鶏卵を食していないのに感染したという難しい理由が発生しているのでしょう。

 

鶏卵=サルモネラという考えはある意味正解でしょう。
しかし、鶏卵に直接原因があるわけでなく鶏卵が汚染されることによる被害がある可能性を示しています。


先ほど述べましたが、事故が発生し食品や鶏卵を調べても特定できないという構図があり患者の検体と養鶏場での菌株が同じであり、結果養鶏場の鶏卵となるのでしょう。


鶏からの産出でない鶏卵でのサルモネラ汚染でも、ワクチンしていますから安心ですということを宣言できるか。神話にとらわれると危険がある事例なのかもしれません。